第27話
「今日はごめんね。お礼をするって言ったのに、コンビニ弁当になってしまって」
「そ、そ、そんなとんでもない!」
(お家にお邪魔できるなんて夢見たいです!)と花音は思わず言いそうになってしまったのを飲み込んだ。
「でも申し訳ないよ」
彼はケトルにお湯を入れるとプレートに戻した。
「好きなところに座って。先に珈琲でも飲む? それとも弁当食う?」
花音が返事するより、先におなかが鳴ってしまった。
「はは。弁当だね」
彼がお弁当をパックごとレンジに入れた。花音は驚いて聞いた。
「そのまま入れて大丈夫ですか?」
「うん」
「あ、いい匂いがしてきました! 次、私もやってみていいですか?」
「はい。どうぞ」
今度は花音がしてみる。待っている間にお湯が沸き、カップにお湯を注ぐ。そして、熱々のカップラーメンを置く。花音はまずラーメンを口にした。
「おいしい!」
「普段、弁当買ったりはしないの?」
「あ、はい。私、事務だし、お弁当、作るので……」
「そう、えらいね」
「え? そんな……」
思いがけず褒められて花音は照れてしまった。
彼はラーメンもお弁当もペロリと食べてしまった。花音は緊張で食べれないんじゃと思っていたのに、話をしているうちにみんな食べていた。
食事が終って花音がテーブルを片付けていると、彼は着替えてきた。白のナイキのポロシャツが爽やかで紺のデニムパンツは長い足を引き立てていた。
初めて見る彼のカジュアルな姿に思わず見とれた。
「あ、片付けありがとう。置いといてくれても良かったのに……」
彼はそう言ってくれたが、花音がしたかったのだ。
「あの……、ごみ箱は……」
「ああ、えっと、ここだ……」
古城はステンレスの扉を開いて、ポンと投げ込んだ。
「これ、ごみ箱だから、実を言うとここに引っ越して来て、まだ2日目なんだ」
「え?」
「だから、まだ要領つかめなくて」
頭をかきながら、笑って言った。
「あの、しばらくは大阪に?」
「うん」
花音の胸は高鳴った。毎日でも彼に会いたいと思った。
「あの、以前は?」
「アメリカ……。まっ、会社に命令されるままだからね……」
「ずっとアメリカに?」
「うん。大学がそっちだったから」
「留学されたんですね」
「親父の友人の勧めでね。俺、親父を早くに亡くしてるから……何かと気にかけてくれてるんだ」
「…………」
(そうだ。小さい時に亡くされてるんだ。凛ちゃんまで失った時、どれだけ辛かったんだろう……)
プライベートなことを話してくれるのは花音に心を許してくれているからだ。すごく嬉しいはずなのに、古城の過去は悲しいことばかり。かける言葉すら見つからない。
花音は、凛が亡くなったことが辛くて日本を離れたのかもしれないと思うと、それ以上聞けなかった。
ふと古城が時計を見た。
「あっ、もう9時だ。送るよ」
「あ、大丈夫です。私一人で帰れます」
「いやいや、もう遅いし、心配だから送るよ」
「そ、そんな。あの、大丈夫です。私、自分で帰れます!」
「送るから」
優しい口調だが、断れない強さがある。花音を心配してくれてるのだと思うと、心が温かくなった。
(また、来られるといいのにな……)
花音は帰る時、名残惜しくて彼の部屋のドアを振り返った。
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