第24話
慌てた様子の吉原が花音に話しかけてきた。
「伊藤さん。今の話、聞いていたんだろう? 話の流れの冗談だから、気にしないでね」
「……はい」
なぜこんなにバカにされるのか自分が情けなくて、悲しくなってしまう。
女の子の声は知らない人だったから、仕事で顔を合わせない人だと思うとホッとした。でも、そんな人まで自分のことを知ってるのかと気が重くなる。
(私、夢中であの人を探してたから、気づかなかったけど、相当おかしな風に目立ってたんじゃ……)
「今度、一緒に食事に行こう」
「え?」
(どうして? 私に好きな人がいるの知ってるのに何で誘うの?)
「だから、食事行こうよ。今日の帰りでもいいし……、行こう?」
「あの、結構です。私」
「まあ~、そう遠慮しないで! 美味しい所いっぱい知ってるから、連れて行ってあげるよ」
「あの、本当に結構です」
吉原のことはもともと苦手だが、もう嫌悪感しかない。
「おーい、吉原、ちょっと、確認したいんだけど……」
吉原と同期の村上だ。吉原は花音の元から離れて行った。思わず、ホッと息をつく花音。
「おはよう。伊藤さん」
今度は、山野美香だ。
「おはようございます」
「あれ、伊藤さん、傘は?」
「え? あの……、わ、忘れて来たみたいです」
さっき、吉原の話を聞いていたせいか花音は思わず誤魔化した。
「それがいいわ。見つかりっこないし……それにね」
と耳打ちしてきた。
「ちょっと、噂になってるのよ。男物の黒い傘を持ってる変な女の子がうちの会社にいる……みたいな。それで、止めようと思っていたの」
「そうだったんですか。ごめんなさい」
「謝ることないわよ。気にしないで!」
美香はひらひら手を振ると自分のデスクへ戻っていった。
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