第23話

「……あ、あれ?」


目が覚めると、そこに古城の姿はなく、チャッピーだけが気持ちよさそうに眠っていた。


驚いてソファーから体を起こすと古城の上着が落ちた。慌てて拾う。


チャッピーのおでこと自分のおでこをコツンとすると、チャッピーは花音の鼻をぺロッと舐めた。


テーブルにメモ書きがあった。


【先に出ます。昨日はありがとう】


花音はメモ書きを抱きしめると、スマホを手に取った。いつものように凛と古城が現れる。


(凛ちゃんが、亡くなってたなんて信じられない。美しかった凛ちゃん、もし、生きてたらどんな人になってるだろう……)


今朝は気持ちが落ち込んで体が重い。花音は古城の上着をそっと抱きしめた。



―――

――――――

――――――――

沈んだ気持ちのまま出社した花音は、自分の席にカバンを置くと、出勤してきた人に珈琲を淹れるため給湯室行った。話し声が聞こえてくる。


「ねぇ、ヨッシー、伊藤さんのこと好きなの?」


花音の知らない声だ。


「なんで?」


「だって、最近、よく声かけてるの見掛けるから」


「なになに、気にしてくれてんの?」


「そりゃそうよ! この会社の彼氏にしたいトップ5に入っているのよ。ヨッシーは」


「嬉しいね。一番は?」


「もちろん、肥田さん」


「やっぱり、肥田さんか~」


「でも、わたしは、肥田さんより、ヨッシーの方がタイプよ。だから、伊藤さんを誘うのが嫌なわけ。あの人と話してて面白い?」


「う~ん」


「あの人、付き合い悪いし。みんなが盛り上がってるときでも、いつも作り笑いでバカにしてるところが気に食わない」


「ああ~、そうかぁ……。まあなぁ…………俺さ、年いってから生まれた子でさ。親が歳なわけ。最近、病気が多くてさ、そろそろヤバイかなって思って……」


「それって……」


「そ、介護問題」


「そんなの、ヘルパーさんに頼めるでしょ?」


「ま、実際問題になると、そんな簡単じゃないわけよ。俺、一人息子だから切実な問題なのよ。伊藤さんは地味だし、誠実そうだし、家庭に入ればしっかり家を守ってくれそう。見た目も悪くない。旦那になった親の面倒もきちんとしてくれそうだろ?」


「えー。ヨッシーって、意外と計算高いんだ~。幻滅~……でも、確かに真面目だけが取り柄の伊藤さんなら……。なるほどね、結婚と恋愛を分けてるわけね」


「結婚を真剣に考えれば、君らみたいに金がかかるタイプは困るよ。話してる分には楽しいけどね。その点、伊藤さんは男慣れしてなさそうだから、簡単に落とせそうだしね」


「そのわりに、苦戦してない?」


「それなんだよ~。なんで~? チョロいと思ってたのに~、全然なんだわ」


「なんでか知ってるわよ。彼女ね、ちょっと前に傘を貸してくれた男に夢中らしいわよ」


「ほー。誰?」


「それが、名前も会社も分からないんですって。だから、会社帰りにずっと男物の傘持ってウロウロしてるんだって。私も見たわ。変なの。頭おかしいんじゃない?」


「まだ、見つかってないんだ?」


「たぶんね……」

まだ話は続いていたが、これ以上聞きたくなくて花音は自分の席に戻った。

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