第16話


千里中央行き電車の到着アナウンスが流れてきた。


車内では高校生たち大騒ぎしている。


「えー! 爆弾低気圧だって」


「うそ~!」


「お母さん、来てくれてるかな。ラインしよ」


「どばーと降ってすぐ止むんちゃう?」


学生たちは大騒ぎだ。


電車は程なくして中津の駅に着いた。降りたのは、彼と花音の二人だけ……


地上に出ると、雨はまだ勢いよく降っていて風も強くなってきた。花音はさらに申し訳ない気持ちになる。


「あの、この道を行ったところにあるマンションなんです」


普段は水はけの良い道なのに、今日の規格外の大雨は許容量を超えているらしく、あちこちに水たまりが出来ている。時々、突風が来るので、このまま外に出ると歩くの危ない状況だ。


彼は傘を差すと、花音の肩を抱き寄せてくれた。大きくて暖かい手……。花音の胸は大きく高鳴った。花音は彼をそっと見上げた。


ほどなくして、マンションに着いた。


「あ、あの、ここが私の家です。こんなに濡れてしまって……」


彼は、マンションの玄関口の天蓋の下に入ると傘をたたんだ。花音も濡れているが、彼はずぶ濡れになっていた。申し訳なかった。


「あ、あの、温かい珈琲を入れますので、雨が止むまでどうぞ……」


「いえ、ここで失礼させて頂きます」


雨はさっきよりもひどくなり、雷がずっと地響きを立ててゴロゴロとなっている。稲光とともにドーンという大きな音がして、花音は思わず耳をふさいだ。体に響くような衝撃も来た。どこか近くに落ちたのかもしれない。、


「お願いです。雨が小さくなるまでの間だけでも……」


「いや……、しかし……」


彼は雨の様子を見ている。


また雷が光った。そして轟くような衝撃音が、連続して響いた。


「こんな時に帰られたら、すごく心配です。お願いです。少し休んで行って下さい」


花音は、しっかりとした口調で彼を見つめて言った。その間にも雷は連続して光り、雷鳴を轟かせている。まるで彼を引き留めてくれているみたいだ。でも、彼は迷っているようだった。


私をかばって傘を差しかけてくれてたせいで、ネイビーカラーのスーツの上着が濡れている。


「お願いします! 私、心配です」


花音が懇願するように言うと、


「……じゃあ、ごちそうになろうかな」


彼は少し困ったような笑顔で返事した。


「はい!」


花音があんまり元気よく返事したからか、彼は少し目を見開いた。

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