第14話

コーヒーショップは、程良く賑わっていた。


明るい所で見ると、なおさら素敵な人だと思った。涼しげで爽やかな目元、整った顔立ちに鼻筋がきりっと通り、引き締まった知性的な口元。


そして、やっぱり、凛ちゃんのお兄ちゃんにとても似ていた。


テーブルを挟んで、向かい合わせに座ると、花音は急に緊張してきた。周りの客も彼の事をちらちら見ている。


彼が、「決まりましたか?」と聞いてくれたが、花音は彼に見惚れて考えていなかった。


「あ、あの……えーっと……」


「ケーキセットがありますよ。これにしますか?」


「はい!」


いっぱい聞きたい事があったはずなのに、頭の中が真っ白で、何が聞きたかったのか分からなくなってしまった。彼はふと街に視線を移す。


「また雨が降って来ましたね」


花音も彼にあわせて外を見た。ガラス越しに映る雨は優しく、音もなく降り、街路樹を濡らしてる。


可愛いケーキが運ばれてきた。目の前に置かれると、ケーキに目のない花音はパッと目を輝かせた。


「おいしそう~!」


「ケーキ、好きですか?」


「はい!」


「じゃ、これもどうぞ」


「いいんですか!」


「甘いもの苦手で、良かったらどうぞ」


ケーキを花音の手元に寄せて、爽やかな笑顔を向けると、コーヒーカップを手に取った。


(あっ! ブラックで飲むんだ! カッコいい~!)


その姿に見とれていると、ふと彼が視線に気づいて花音を見ると、素敵な笑顔で笑ってくれた。


彼の視線に触れて、恥ずかしさに、思わず照れ笑いをして下を向いてしまった。


「あ、あの……」


「はい」


「お名前、伺ってもいいですか……」


最後の方は消えるような声になってしまった。


「ああ、そう言えば、自己紹介まだでしたね」


スーツの内ポケットから名刺入れを取ると、花音に一枚、差し出した。


古城賢こしろ けんと言います」


「!」


(凛ちゃんのお兄ちゃんと同じ名前だ!)


花音は賢という名前にもしかしてこれが運命の出会いではと思ってしまった。花音が思わず名刺に見入っていると、


「君は?」


彼の低く優しい声が花音の耳をくすぐる。


「あ、あの、私、名刺持っていなくて……伊藤花音です。伊藤はよくある伊藤で、花音は草花の花と音楽の音と書きます」


「花の音、ですか……、きれいな名前ですね」


名刺には三友商事とあった。


「あ、あの、三友商事お勤めなんですね」


「ええ」


「わたしは、一筋入ったところにある西山物産に勤めています」


「この辺は商事会社が多いですからね」


「……はい」


「ぜんぜん、お見掛けしませんでした」


「出張だったもので……無駄足を踏ませてしまいました。すみません」


彼は少し目をふせた。


「え、いえ、あの……」


彼にしてみれば、傘はあげたものだったのだし、花音が勝手に探していたのに、謝ってもらうなんて、申し訳ない気持ちになった。ふと外を見ると、みな傘を差していない。


「あ、雨、止みましたね」


花音の言葉に、


「そうですね。行きましょうか?」


「は、はい……」


花音は残念に思ったが、後に続いた。

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