学区対抗戦 最終日
新一が目的の物を手に入れて急いで学校へ向かった時、時間は既に五時十五分を過ぎていた。
教室にはすでに仁美だけではなく、全員が揃っている。新一の姿を見た仁美は立ち上がり、輝いた瞳で新一を見つめた。
「新一――」
仁美だけではない。次郎も、双葉も、美枝子も三平も――希望に満ちた瞳で新一を見つめている。
そう、全員はこれから新一が話すことを知らない。その話――その策、計画を聞くことを――今日まで楽しみにしていたのだろう。
だが、その輝かしいが瞳が、新一にとっては辛かった。もう、すべてを話さなくてはならない。それが辛かった。
おれは親殺しであり――今日はおれは――。その一言がどうしても言い出せず、俯いてしまう。
「なあ新一、いよいよ、お前が考えて準備したっていう策を聞かせてくれるんだよな?」
希望に満ちあふれた次郎の声――友の声。新一は難しい顔をして俯いた。その姿に、やがて全員の希望に満ちあふれた瞳が曇り出す。
「ど、どうしたの新一、なんとか言ってよ。わからないよ。計画は――駄目だったの?」
双葉が心配そうにそう言うと、新一はその言葉には首を振った。そう、新一自身が立てた計画は、完璧と呼べるほど順調に進んでいる。
「すまない」
ぼそりと新一はそう呟いた。
「ちょ、おい、どうしたんだよ新一」
次郎が新一の肩を掴んで顔を上げさせると、新一は涙をこらえているような表情だった。
「どうしたんだよ、新一、らしくねぇじゃねぇか。おれは最悪、戦ったっていい。何があったか知らねぇけど、言ってみろって」
次郎はそう前向きな声を掛けたが、その声は震えていた。長い間新一とは友達であるが、こんな新一を見たことがなかったからだ。
仁美が新一の腕を掴み、席に座らせる。そして、新一の手を掴むとそれを胸元に持って行き、両手でぎゅうと握り込んだ。新一の手は、冷え切っていた。仁美は少しでも暖めようと、新一の手をさらに握る。
「ねぇ、どうしたの?」
仁美の声は、震えてはいなかった。仁美は、例え新一の計画が失敗に終わり、今日死ぬことになっても構わないと思っており、むしろ、あんな家に戻ったり、また再び競売に掛けられるくらいであればそのほうがいいと思っていた。そう、愛する新一と死ねるのであれば本望であり、最後のその瞬間まで、新一を眺めているつもりでもいた。
「新一、それと、どうして私を教室に五時に呼び出したの?」
そして、仁美は仄かに期待をしていた。今日、朝五時にここに呼ばれた理由に。新一が遅れてしまったし、みんなが思ったよりも早く来てしまったから二人きりにはなれなかったが、その理由を、教えて欲しかった。そして、今この瞬間に、それが聞けると思っていた。
新一の顔を眺める。かさついた新一の唇が一瞬だけ動いたような気がした。
「え?」
仁美がその言葉を聞こうとそう言った瞬間、仁美は新一に強く抱きしめられた。その行動に仁美は驚いたが、仁美を放した後、新一は仁美だけではなく、その他の仲間も抱きしめる。
「ありがとう」
新一がそう言うと、すでにいつもの新一に戻っていた。先程までの暗い顔ではなく、自信と、いつも困難をどうにしかしてきてくれた、頼りがいのある新一の表情に戻っていた。
「おれがやってきたこと、おれがやろうとしていること、今から全部話す、話すけど、もうこれはどう足掻いても変えることができない計画で、ショックを受けるかもしれないけど、おれの言うことに従って欲しい」
新一のその言葉に、全員が希望を持った瞳に戻り、強く頷く。だが、その希望の瞳は新一がバッグから取り出した物を見て徐々に曇り、そして全員の表情は凍りついていく。それは、血で汚れたビニール袋だった。新一はそれを取り出すと、机の上に置いた。ごんという音から、中にはそれなりに固い物が入っているのだろうと美枝子は想像した。袋の下には、血液らしきものが貯まっているのか、ゆたゆたとしている。
「みんな、落ち着いて聞いて欲しい。おれは――親殺しだ。そしてこの中身は、仁美の父親の首が入っている。そしておれは――」
かくんと膝が抜けたように仁美は崩れ落ち、双葉は気絶することを我慢するかのように机に手を付いた。美枝子と三平は目を大きく見開き、次郎はぱくぱくと口を動かしている。
新一は、仲間の衝撃や動揺を見て、心を痛めたがそのまま話を続けた。そう、もう後戻りはできない。すべてを話すしか――道はない。
「親殺しだ――…。今日、試合は引き分けるが、再戦はない。そう、今日、試合が終わると同時に、おれは――…。みんな、今からおれが言うことに従って欲しい――大丈夫だ、この後のことも、すべて、ちゃんとやってきたから――」
新一は、すべてを語り出した。自分のやろうとしたこと、これからやろうとしていること、その後のこと――それらすべてを――。
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