学区対抗戦
学区地区対抗戦を翌々日に控えている今日も、新一はスコップを肩に抱えたまま目的の場所へと移動していた。今日と明日を乗り切れば、もう行くこともないであろう場所。新一の唯一の弱点ともなるであろう場所――。
暗い夜道をとぼとぼと歩いていると、前から車が迫ってくる。そのまま通り過ぎるものかと新一は思ったが、車は徐行し、やがて新一の隣で停車した。
「しんいちいぃぃ」
車に乗っていたのは、真木だった。新一は冷静な表情をしたまま、真木の車をじっと見つめる。他に同乗者はいない。真木一人であることを確認した。真木一人であれば、最悪の出来事になっても、対処できるだろうと思うと、思わず安堵のため息を漏らす。
「なぁにため息ついちゃってんだよおまえはぁ。おまえ、この前はよくも恥をかかせてくれたなぁ?ああ?」
真木が車を降りて、新一の前に立った。
「いいんですか?殴られるのは構わないけど、おれは学校にチクるよ。そうすれば、あんたはおしまいだ。学区対抗戦を邪魔すれば、重罪になる」
「んなことにびびってたら、おれ達の商売はあがったりなんだよガキぃ。ちっと乗れや、付き合えよ。お前を兄貴んとこに連れてって、お前のママのツケの話がしてぇからよ。てめぇが乗らないなら、今から妹のところへ行って妹売っちまうからなぁ!」
ぐぃっと袖を捕まれた新一は、それを乱雑に払った。
「てめぇッ」
今度は胸ぐらを捕まれたので、新一は真木の親指を握り、ぽきりと折った。
「あぎゃッて、てめぇッ」
親指を折られた真木は、痛さと言うよりもその行動に驚いた。新一がまさかあっさりとこんな反撃を食らわせてくるとは思わなかった。学区対抗戦を控え、トラブルを起こせないのは新一も同じはずだったからである。
「瑞樹を、なんだって?」
その新一の声は、震えていた。新一は真木の親指を掴んで折ったまま、まだ放してはいなかった。新一は更に力を入れて、親指をぎゅうと捻る。
「あーーーーだったった、てめぇッこんなことしてッいいと思って――」
真木がそこまで言った瞬間、新一は親指をから手を放して、真木の髪の毛を掴んでから、顎を横から思い切り押した。子猫が鳴くようなか細い音がして、真木はそのまま崩れ落ちるように地面へと膝をついた。だらりと、真木の首はだらしなく繋がっているだけになる。
新一は、迷うことなく真木を殺した。決して、妹のことに触れた怒りだけではない。考えなしの行動ではない。真木の存在が、これから行う計画の一部に支障が出ると判断したからである。
新一はそっと真木の身体を車のトランクへと乗せると、そのまま山の方向へ運転して向かおうと決めた。海は遠いし、このまま車を捨てれば目撃者が出るかもしれない。そう、ずっとでなくともいい。明後日まで、逃げ切ればいいだけだ。長時間は隠す必要はない。
マニュアル車ではないことに新一は微かな安堵を覚えると、そっとギアをドライブへ入れて走り出した。
車に取り付けられたデジタル時計を見ると、すでに深夜一時。新一は舌打ちをする。最初の計画の実行は今夜二時。このまま山へ車を捨てて自宅まで戻るには、ぎりぎりの時間だったからだ。『引き取り人』に電話を掛けるわけにもいかない。通話履歴など、そう言った確定的な痕跡を残すことは許されない。迷惑を掛けるわけにはいかない。
計画は動き出す。
もう――立ち止まることはできない、そして許されない。
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