学区対抗戦
『ぶぉッぶぉッぶぉッ』
相崎の鼻腔が大きく動く。呼吸ができずに、息を吸えないということが容易に理解できる光景だった。目は飛び出すほどに大きく見開き、溢れる涙が何度も頬を伝っては、首に固定された金属リングをまたさらに伝って床へと垂れた。
『一回目終了』
金属棒がゆっくりと抜かれる。執行官は潤滑剤のスプレーを金属棒に噴射すると、一歩下がり、金属棒を胸の辺りで構えるように持った。相崎は全身で呼吸をするように、身体を上下に揺らしている。
『二回目、胃まで』
新一の隣で、女生徒が鼻を啜り、軽く嗚咽も漏らした。新一も、相崎の心境を思えば泣いてしまいたかった。人間がどうしてここまで人間を苦しめるのか――新一には理解できない。そして、こんなものを見せる大人達も理解できなければ、この教室にいる生徒達も、いつかはこういう大人になってしまうのだろうと思うと、絶望しか沸いてこなかった。
今は相崎の過酷な状況を見て涙を流す新一の隣の女生徒も、大人になれば大人に逆らうとこうなるんだと子供に拷問処刑の映像を見せる大人になるかもしれない。
他者からずっと虐げられてきた者は、他者を虐げられる立場になった時、容赦なく虐げることができる者になってしまう。自分自身が味わってきた苦痛を、他者に平気で与えられるようになってしまう。
『おごぉぉぉッおごぉぉぉぉぉぉッ』
食道から胃までは、真っ直ぐに繋がっているわけではない。金属棒を差し込む執行官は手首を回しながらゆっくりと胃までの道のりを探し、探す度に相崎は椅子をがたがたと揺らして跳ねる。
『ぐがッぐがッぐがッ』
アヒルに似た声を上げながら、相崎は痙攣を始めた。その表情は芸術家が描いた人間とはかけ離れた人間の肖像画によく似ている。見るに堪えないその表情に、新一は目を伏せてしまいたかったが、目を伏せずに相崎の姿をその目に焼き付ける。
それは、必ず今回の作戦をやり遂げるという覚悟であり、自分を奮い立たせるための儀式でもあった。
胃まで金属棒が到達すると、執行官達は手を止めて腕時計を確認していた。金属棒が口から飛び出している姿の相崎は、小刻みに痙攣を繰り返している。
少しの沈黙の後、執行官はゆっくりと金属棒を相崎から取り出すと、再び先程と同じように金属棒に潤滑剤のスプレーを噴射し、胸の辺りで構えるように金属棒を持つ。相崎は金属棒が抜かれた後、激しく咳こんでから唸るような声を上げるだけだった。
『三回目、貫通』
そのアナウンスを聞いた時、新一は言葉の意味を疑った。貫通?そんなことができるはずがなく、胃から繋がる十二指腸は、六メートルの長さにも及ぶ内臓であると新一は聞いたことがあった。金属棒はぱっと見ただけでも二メートルもない。だが、すぐに貫通の意味を理解した。金属棒を持つ執行官と、相崎の頭を抑えている執行官――そしてもう一人、屈強な身体をした、ハンマーを持った執行官が現れたからだ。
内臓など関係ない。金属棒を叩いてすべての内臓を破り、肛門付近から金属棒を出すつもりであろうと――見ている者なら容易に想像ができる。だが同時に、わかりやすい映像であるが故に、自分の身体であれをやられたら――という想像も容易に出来た。
口から金属棒を挿入され、ハンマーで打たれて身体を貫通させる。しかも、金属棒の先は尖っては折らず、丸みを帯びている。無理矢理に臓器を内側から突き破られる――痛み。その痛みを想像するだけで、新一は吐き気と闘わなければならなかった。
『ごぶッごぼぼぉぉ』
三回目は、執行官達の作業が雑だった。先程までは丁寧に胃までの道のりを探していたが、今回は違う。金属棒を入れる速度も速かった。相崎はがくんがくんと大きく痙攣し、がたがたと椅子を揺らしたが、金属棒は容赦なく体内へと入る。
金属棒を持つ執行官がハンマーを握る執行官に軽く頷くと、ハンマーを持った執行官はその握るハンマーで金属棒を叩いた。
『ぼぁぁぁぁぁッぼぁぁぁぁぁッ』
相崎の目が飛びださん程に大きく見開かれ、鼻腔も大きく広がった。かつんと再び打つと、相崎の身体はそれに合わせて跳ねて、相崎の腹部がぴくりぴくりと痙攣し、やがて大きく膨らんでは凹む。
見るに堪えない残虐な映像に、ある生徒は嗚咽を漏らし、ある生徒は佐藤教師にわからないように目を伏せた。何度か金属棒を打った頃、相崎は声を出さなくなり、金属棒を打つ衝撃によって身体がびくんと反応する程度になる。
執行官が大きく振りかぶると、これまでにない勢いで金属棒をハンマーで打つ。同時に、こつんという音が鳴ると、執行官達は相崎の身体を持ち上げて、横倒しにした。
相崎の性器にはモザイク処理が施されていたが、肛門にはモザイク処理がされていなかった。肛門から、金属棒が少しだけ出ており、糸をひくような濃い血液がどくどくと流れていた。
『絶命を確認、終了』
変わらず無機質な男性の声が流れると、映像は終了し、スクリーンには再生準備中の青い画面が映しだされたが、新一は画面から目を反らず事ができずに、無言のまましばらく青いスクリーンを眺めていた。
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