学区対抗戦

『それでは、第八十九条により、相崎七海の拷問処刑を執行する』

 無機質な男性の声が、スピーカーから流れる。この時代の学生が最も苦痛とされる授業は、数学でも体育でも、国語でもなく、この――道徳の時間だった。

 この国においての道徳とは、人の道――優しさやモラル、ましてや人間性を養う者ではない。ただ純粋に、大人達に逆らうとこうなるぞ、ということを徹底して叩き込む時間だった。黒板の前に大きなスクリーンカーテンを垂らし、そこに歴代の最も残酷な拷問処刑の様子を映し出して、それを生徒に見せる。見せるビデオは教師の思考によって内容が異なるが、佐藤教師は今回、最も美しく、最も残酷な少女と呼ばれた相崎七海という十四歳の少女が、拷問処刑によって果てる姿を惜しみなく捕らえたビデオを放映することにした。

 教室には、学区対抗戦に出場するメンバーも居る。他の授業をさぼっても学区対抗戦に出る生徒は何も咎められないが、この道徳だけは厳しく咎められ、親をも呼び出しにするほどの対応をされるので、新一達は嫌々ながらもスクリーンに映された怯えて鼻水を垂らす相崎七海をぼーっと見つめていた。画質は荒いが、相崎の絶望だけは鮮明に映し出されている。

「え――、諸君も知っているだろう。このスクリーンに映されているのが、歴代の中で最も美しく、最も残酷な少女と呼ばれた相崎七海だ」

 佐藤教師がそう説明をするが、誰も返事はしない。スクリーンに映し出された映像はどんどんと進む。

「相崎は、その容姿から次々と父親を変えては、殺害をしていた。四人目を殺した時に、ついには逮捕されたんだな。大人に対する悪行は――必ずいつかはばれる。相崎は苦もなく殺害した父親達をバラバラに切断して海に捨てたり、山に埋めたりを繰り返していたようだが、そんなことをしても無駄だ」

 新一はその言葉を聞いて、反吐がでる思いだった。父親を変えるということは、何度も競売にかけられた――ということだ。佐藤教師がそれを詳しく説明することはないが、つまりは美しい容姿から性奴隷として売られ、耐えきれずに殺害を繰り返していた――ということだ。

『狂ってやがる、お前ら、どいつもこいつも、狂ってんだよッ』

 学校に置かれているポピュラーな椅子に全裸で縛り付けられて座っている相崎は、そう叫んだ。相崎の声に、誰も反応はしない。虎視眈々と――スクリーンの中で蠢く黒ずくめの執行官達は、手慣れた作業で準備を進めている。

『どうせこれも流すんだろ?テレビでよッ変態親父どもッよく見とけよ、私だけじゃない、いつかはお前らがいいように使ってる子だってな、お前を殺すかもしれねーンだからなッ』

 相崎は唾を飛ばしながら尚もそう叫ぶ。だが――恐怖は消し切れてはいない。涙をぼろぼろと流し、自身が叫ぶことによってその恐怖を誤魔化している様子だった。

 その様子は、大人達には酷く滑稽に映るであろう。だが――学生達にはそうは映らない。自らの人生と戦い、自分の気持ちを押し通した英雄の最後の姿がそこにあるのだ。

『現在、二十時三十分五秒。拷問処刑を開始致します』

 再び無機質な男性の声が流れると、執行官達は相崎の頭を掴み、口に金属の入れ歯のような装置を付けた。一見するとSMのようなプレイで使うような器具であろうそれは、相崎が口を閉じることができないようにする為の器具である。今度は相崎の後ろに立つ執行官が相崎の髪を掴み、強制的に上を向かせた。それと同時に、もう一人の相崎の前に立っていた執行官が相崎の首回りに金属のリングを装着していく。これは相崎が決して下を向かないようにする為の物で、顎の下から鎖骨の上までをびっちりと固定する器具であった。

 金属のリングが最後まで装着された時、相崎は口を開けたまま強制的に上を向き、椅子の後ろで両手も高速され、足首は椅子の脚にがっちりと固定されていた。相崎は叫び声を発しているが、言葉にはなっていない。

『一回目、食道まで』

 その声と共に、執行官が細い金属棒を持った。両方の先は尖ってはおらず、丸みを帯びている。金属棒には潤滑剤が塗られているのので、てらてらと鈍い光を放っていた。

『おぶぉッおぶぉぉぉぉッ』

 金属棒を相崎の口からゆっくりと差し込んだ。苦しそうな声を出す相崎の事は何も気にすることなく、執行官は口の中にずぶずぶと金属棒を挿入する。

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