学区対抗戦

 その女性は、今となっては珍しく――妊娠していた。自らの胎内で、子供を育てていた。その姿を見て、新一の心の奥に何か熱いものがこみ上げてくる。新一は確信した、そう――これこそが人間として正しい姿なのだと。やはり、この国は間違えているのだと――。

「はい、自分は来週の学区地区対抗戦に出場する身でして、コウナギ会長にどうしてもお願いしたいことがありまして立ち寄らせて頂きました。決して、損をするような――リスクがある話でもないのですが――…。いえ、むしろお互いが得をする話だと思います」

 新一はこの女性がそれなりの地位であると踏み、少し早口でそう言った。女性は舐めるように新一のつま先から顔までを見ると、小さく頷く。

「そう。面白そうじゃない。じゃあ、貴方はお客さんてことね、失礼致しました」

 勝ち気に微笑んだ女性は、新一の肩を軽く叩いてから流れるように頭を下げた。

「申し遅れました。私はコウナギの第一秘書のシラキと言います。コウナギはそのようなお話に強く興味を示します。よろしければご案内致しましょうか」

「ああ――はい、でも…今日はいないって――」

 新一がそう困惑したように言うと、シラキは再び勝ち気な笑顔を見せてから言った。

「ふふふ、申し訳御座いません。それは、建前ですよ」

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