【第18話】神の見る世界 プロローグ《先輩+ヌシとの邂逅》(※神のイシキと融合した王者兼道視点)

「――――王邪おうじゃくん、起きて」

 そこには先輩が居た。あれほど求めた先輩が。

「やっと『王邪兼道おうじゃかねみち』になったね。おめでとう」

 万感ばんかんの想いが心を満たす。やっと認めてくれた。先輩が俺を認めてくれた。

「苦しかったよね。もう創らなくていいんだよ。私にだけ物語を見せて。私があなただけの読者になってあげる。……二人だけの世界に行こう」

 ただただ白い世界。まっさらな世界に先輩と二人っきり。先輩は優しい。どこまでも優しい。優しいからこそ、優しすぎるからこそ、俺の心を逆立てた。

「こんなの先輩・・じゃねえエエエエーーーーーーーー!」

 俺は絶叫していた。だって先輩はもっと容赦ようしゃないんだから。




御名答ごめいとう。はははは」

 そこには俺の様子をさも可笑しそうに見つめるの姿があった。

『キャラクターの黄金率おーごんりつ

「僕はいつどのタイミングで何が起きればこういう性格(キャラクター)になるというパターンをすべて網羅もうらしているんだ」

「だから全ての性格(キャラクター)を即座に再現可能なんだよ」

「ちなみにそれは、君と愛し合った後のミサキ先輩ね」

「なめんな、きさまあ! テメエは全てを創れると思っているが、実は俺達の感情・・なんざ、全然理解できていねえんだよっ! 創るのが辛い苦しい……俺の苦しみなんか理解できる奴なんていねえ、いや、理解できて欲しくなんかない! あってはならない」

「物語のある世界なんか滅んでしまえ」

 俺は全てを呪い、世界から物語を消そうとした、何故か、はっきりとそれが出来るような気がしたからだ。

 そこに、まったくもってなつかしい声と忌々いまいましい声が同時・・に響いてきた。


「まったく騒がしいでありんす」

「そうだね、ピョンちゃんはやはりこうでないと」

 そこにはヌシと並び立っている先輩の姿。

「ほんものだな……やっぱ先輩容赦ない」

「いやあ、面白かったよ、君たちの物語・・

 先輩は読み手になったせいで変わってしまった。

「ほんとーに、ピョンちゃんを見てると面白い(飽きない)なあ。ピョンちゃんのあわてふためき具合を見ていると、製作者は私だけでは無いと、苦労してんのは私だけでは無いと思えたよ。なんか安心して、自分は孤独じゃ無いと思えてさあ……」

 先輩の言葉を最後まで聞くことは叶わなかった。


「がっ」

「まったく、きみは、勝手・・しすぎだ」

 の放ったボディーブローに、俺の身体は白き世界に沈んでいった。




「――――いま、まだ本気出していないだけ」

 ぼやけた意識の中、神の唐突とうとつな宣言で舞台の幕が上がる。

が本気になったら人格(物語=人生)を一人創るくらい簡単さ。でも普段は何もしない。読者に徹している。だって、しんどいんだもん。あの女を満足させる話を創るのはさあ」

ぬしさん、呼んだでありんすか?』

 憑依ひょういしたのだろうか? 先輩のを被ったヌシがしゃしゃり出てくる。

「呼んでねえ、呼んでねえ、お前はブンシュの海で人間の物語でも貪っていろ」

『つい、今しがたほとんど喰ってしまったでありんす』

『また、物語がまるまでたいくつでありんす。ねえ、主様ぬしさま(神様)?』

「まさか、最近作家の自殺・・が多かったのって?」

 俺の疑問にヌシはテヘッと舌を出しながら、何でも無いことのように告げた。

『うっかり呼び寄せすぎたでありんす。一気見いっきみの衝動に負けたでありんす』

「きさまあああーーーー!」

「まあ、落ち着け。……なっ、厄介・・な女だろ。やしなの身にもなって欲しい」

「本当にこの女は恐ろしいまでに『読者・・』を体現しすぎてる」

「いまでは、創らなきゃ良かったとさえ思う。でも無理だった。だって寂しかったんだもん」

 そして語られる創世・・物語・・。それはすなわち孤独に耐えられなかった創作者の犯したの物語。

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