【第17話】壊れゆく想いの果てに(オール・キル・ニード・ユー)そして 神・降・臨

――俺は壊れた。絶望ぜつぼうし、変貌へんぼうする。腹には全てをあさる巨大なくちが、背中には天使をしたまがまがしい六対の漆黒しっこくの翼、捕喰ほしょく対象が動けないから卑怯とかどうこうとか関係ない。サッカ、人間全てを取り込む為の俺に課せられた儀式・・、血も涙も無い一方的な蹂躙じゅうりんが始まった。

 人類とサッカ達が激突する決戦の地で(といっても夢の中というか、仮想空間だが)あてもなく暴れ歩く。発現した六対の翼で暴風のように戦場を跳ね回り、見つける者を人間、サッカ関係無く『って』いった。

 まさに、血も涙も無い狩りゲー。

「オール・キル・ニード・ユー」

 俺の眼前にはホールドトラップよろしく動きを封じられた無数のての素材・・がここにある。

「ここは俺の……『餌場・・』だ」

 だが、なんの感情も湧かない。ただただ『作業』をこなす。心が驚くほどのスピードで冷えていくのを感じる。ヨシナリさんを、そして文子を失った哀しみが心を満たしたからだろうか?

そういえば、バトルマンガやヒーロー物で『悲しみを極めた主人公』がものすごい力ないし能力を発揮するシーンが良くあるけど、今ならその気持ちが分かる気がする。

「俺は……本当に……独りになってしまった」

 呟いた言葉が、今の自分の状況をいやがおうにも思い出させる。絶望・・が心を支配・・していく。だからこそ。


「おとなしくしてもらおう!」

「なんだ、中庸ちゅうようか」

 俺を止める怨敵おんてき中庸の声さえも最早どうでも良くなっていた。中庸に対する止めどない怒りより、ヨシナリさんを失った、そして文子までをも失ってしまった果てしない哀しみの方がはるかに勝っていたのだから。


 だが、俺は思い違いをしていた。文子は消えてなどいなかった。

『悲しみを極めましたね……今のマスターは『』そのものですよ』

『そうだな、おめえらしくない出で立ちだよな』

「言ってろ、クソ野郎共」

 俺の中に居てくれた文子とミツバチに安堵を覚えつつもぶっきらぼうにしか言葉を返せない俺。そして、その時々の俺の気持ちをいつも皮肉を交え的確に表わす文子が今は妙に頼もしかった。


「まったく、お前を止めるために我はとうとうあのおを呼び出すことになってしまった」

「……」

 当然、俺の脳内のやり取りを知らないので素っ気なくあしらわれつつクソ野郎呼ばわりされたと誤解して若干むっとしていたものの、落ち着きを取り戻し大仰おおぎょうなげいてみせる中庸とは対照的にかたわらにひかえるメイは終始無言、というか無表情。能面・・を付けた人形のように。だが、一転、様子ががらりと変わる。幼さの中に物事を見通す静けさを備えた少年棋士しょうねんきしのような雰囲気。

「自らの身体を貸したが、なかなかに骨が折れたぞ」

「そうですね、神、久方ぶりに我らに神のなんたるかを見せていただきたく」

 神降臨・・・

「じゃあ、はじめるかあ、ちょっと、君、色々やりすぎだよ、壊してばかりじゃ、何も創れないよ」

 俺はニヤリと口角を歪める。一度は文句を言いたかった相手が、わざわざ向こうから出張って来た。それは願っても無いことだからだ。そしてヨシナリさんやミツバチ達の想い、全てを込めて。

「じゃかあああしいいいいいーーーー!」

 速攻突貫とっかん、俺は好青年面した神の野郎に一発食らわした。……はずだった。

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