【第16話】壊れた世界で共に踊ろうか文子(ヨシナリさんを喰った果てに)


「ーーっ!」


 叫びたいほどの衝動なのに、力が湧いてこない。同志・・とまで言えた人を失った喪失感・・・は果てしない。


「俺は……独りだ」


 かろうじてそう呟いた俺はただ、力なく立ち尽くしていた。

「俺はまた失ってしまった」

「マスター、お気を確かに」

 慰めてくれる文子、だが俺は冷たく言い放つ。どうしようもなく。

「お前は同志・・じゃない」

「そんな……マスター」

 動揺する文子。当然だ。俺ならこんな主人は見限る。

「うるせー! お前に俺の気持ちなんて分からないよ」

 だが、俺はかろうじて吹き出した感情のままに

「創ったことの無いお前にはなっ!」

 決定的な一言を言ってしまう。

「同志は無理でも共犯者・・・にならなれます。マスターの意志を引き継いでツナグことができます。……マスター、いつまでもそばに居ますよ」

 強い意志の宿った瞳で見つめられ、思わずたじろぐ俺。

言葉にまりながらも、

「なにがあろうと寄り添い続ける……創れなくとも、それが私にだけにできる唯一ですから」

 文子はどこまでも優しかった。


「ははは……嘘くせぇんだよ」

 それが、かろうじて理性・・を保っていた俺の最後の記憶になった。

「ごめんな……文子ふみこ

 俺は文子さえらってしまう。差し伸べられたつたなくも想いにあふれた唯一ゆいいつの救いの手を払いのけてしまった。みずかひとりをほっするかのように。

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