【完結】文書(ぶんしょ)ロイド文子シリーズ原典 『サッカ』 ~飽話(ほうわ)の時代を生きる皆さんへ~ 俺は何が何でも作家になりたい! そう、たとえ人間を《ヤメテ》でもなぁ!!
【第13話】 報われない作者とメシアを求める読者の闇のマッチング空間(世界の果て=ブンシュの海の底 の古書店にて)
【第13話】 報われない作者とメシアを求める読者の闇のマッチング空間(世界の果て=ブンシュの海の底 の古書店にて)
――ここ、どこだ? たしか、俺、中庸を殺そうとして……?
頭が、いてえ。でも間違いなく俺はどこかの異空間に飛ばされたのだろう。だって、ほら、……薄い日差しが差し込む、うっそうとした林を思わせる店内、静まりかえった空気、カチコチと時を刻む古時計の音だけが空間を支配する。まるで
「時の……
「いえ、人は居ます。そして客はちゃんと来ます」
「……あなた以外にもね」俺の
「私は、
「この男は作家になれなかったサッカの一人、著書にて自らのいじられ役の体験を
淡々と語る楠。
「そして私は彼に『出会い』を提供する。最高の読者、彼の思いを最も理解してくれる『
楠の祝詞に誘われるように客がふらりと来店する。表情は明るいが、どこかオドオドした子鹿のような雰囲気を
「彼です彼、あの少年はいじめに悩んでいた。というより『自分がいじられ役』なことに悩んでいた。いつもいつもいじられてばかり、救われない日々、ある日テレビを見た少年はさんざんかわいそうなくらいにいじられている芸人の姿を見ます。『でもこの人達はお金をもらっているんだよなぁ……それに比べて』自らの
おもむろに立ち上がった楠はオペラの語り部のように
『おいで、おいでえ』
作者の男が居る本棚にある一冊が妖しく光を放つ。少年は虚ろな目でその本を手に取り、一心不乱に読み進める。そして涙する。
「
少年の一言に作者の男もまた、涙していた。
「ありがとう、救われたよ」
そう言い残して、作者の男の姿は光の粒子となって消えていった。
「こちらこそ、救われました。僕は一人では無かったんですね。勇気を貰いました」
作家の最後を見送った少年は憑き物が落ちたように晴れやかな笑顔で店を後にしていく。
少年を見送った楠は得意げに俺に語り始める。
「ねっ、最高の『出会い』でしょう?」
「この店は人を『呼び寄せ』ます。それは本自体が呼ぶのです。というより、本に宿った作家の
「そして、そのおかげで、当人は救われ、また、本も救われるのです」
「物語を書いた作家と読み手との
「物語は、そして作家は、物語を真に欲するただ一人を救えればそれでいいのです」
「ここはブンシュの海の底の
「大多数に何となく伝わるよりも、ただ一人に心の奥底まで染み渡ることこそ物語の
「そして作家も己の物語=心の真の理解者を探している。自分を理解して欲しいと思っている」
「本当に作家って
楠の勝手な物言いに俺は思わず反論していた。
「でも、それでも、たくさんの人に認められたいって想いは分かる」
楠は心底理解できないという風に返してくる。
「なんで全てに認められようとするんです? ……一人救えればじゅうぶんでしょう?」
「人間は……作家は欲張りなんだよ」
「はっ、ははははは」
心底人を見下した人間が
「私はこの
楠がギロリと俺をにらみ
「お前もな」
さらりと言い放つと
「この古書店のコレクションにして差し上げましょう」
俺の首をひっつかんだ。
「やめろ……俺はまだ、
「貴方達、作家の
楠の冷ややかな視線が射殺すように俺を捕らえて放さない。『まずい……殺られる』
「こっちだ、手を伸ばせ」
懐かしい
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