【第12話】ヤスフミとヨシナリの青春時代5《認められるかっ! こんな話っ!》ミサキ先輩が小さい頃の話の真実(※中庸視点)


 われのサッカとしての『本能』が全力でこの結末を否定した。いや、これは『感情』か。

 あの方を、いやもうこの男の最後を如何に酷たらしく彩るかしかもう、頭に無い。感情のままに物語のフィナーレを演出していく。とりあえず手足・・は邪魔だ。人間は自由を制限されるほどに卑屈になっていくが、この男にはこれだけではほとんど効果が無い。この男は不屈の精神がある。『言葉』があればいいと思っているのだ。そう、この男に『感じさせて』はイケない。 だから我は『ありとあらゆる』感覚器官を削ぎ落としていった。耳=吸収、を。口=伝達を。次々と奪っていく。そして男はほぼ骨だけになった土台に単眼が花のように咲いた姿を現世に残すのみとなった。だがそれでもなお男は生きている。いや、生きてはいない。かろうじて、ただ活かされているだけだ。そして我が作った活け花は披露ひろうの時を待つ。じきにその時は訪れる。

「おじい様……」

 孫娘が入ってくる。この男の酷たらしい有様を見てもびどうだにしない。

 それどころか、「中庸さん……どうして? どうして? あなたのこと、好きだったのに……」涙を流しながら訴えている。ソレがひどく滑稽にうつった。いいや、我の被虐心を限界まで引き上げたあなたが悪いと言うべきか……、まあ、何はともあれ。

「この娘にを刻み込んでやろう」

 感情ごと表情を凍らしていた我に久方ぶりの笑みが、悪魔のような笑みが宿っていた。そしてすぐさま少女の傍に音も立てずに移動し、ささやいていく。悪魔の言葉を。



「作家は孤独・・でしか無い。孤独でしか無いんだ。この男のように呪いさえ残せずに孤独に、独りで死ぬんだ……ソレがお前の末路・・でもある」

「いやああああーーーーー!」

 孫娘の絶叫が響き渡る。よし、最高のトラウマに仕上げてやった。

 実に愉快、愉快な気分だ。

 そしてソレを唯一遺された感覚器官である眼を見開いて息絶えるこの男。

 まさに最高のフィナーレ。


「ひゃっはっーーーー!」

 すげえ、すげえ、すげえ、これが『たけり』か! いいな、いいな、人間っていいな、素晴らしい、素晴らしいぞ!

「これでひとまずサッカとして成長したかな?」

 そしてぼんやりと呟きながら、この悲壮ひそうにあふれた光景を悠々ゆうゆうと見渡していたのだった。


 だが、我に返ると恐ろしくて仕方が無くなる。

「人間ってこわい、こわい、こわい」

 感情に振り回されるって恐ろしさは、サッカになってから忘れていた事実。やっと思い出した。これが人間、コレが人間なんだ。




「――――ちょうど、目の前のお前のようにな」

「だからあえて言おう『感情・・で書くな』と」

「てんめえーーーー!」

「以前、メイが悪魔だと思ったこともあったが、撤回・・するぜ!」

「貴様が本当の悪魔だ!」

「ありがとう。最高の褒め言葉だよ」

 全身の細胞が訴える。コイツを殺せと、絶対にここで殺さねばならないと。怒りで染まりきった身体がたけり狂う。

「今殺る! すぐ殺る! もっと殺る!」

 もう、コイツのにやけ面を一瞬たりとも視界に収めたくない。すぐに消したい。

「やってみんさい、われはいつでもウエルカムだぞ」

を喰え、さすればはっきりするだろう」

 そしておもむろに両手を下げ、自らを供物とするよう促す。

 ソレが尚更に俺の怒りを増幅させた。

「望み通り、喰い散らかしてやらああーーーー!」

 その時声が響いた。

『美味しそうで、ありんすなあ』と。



 背筋が凍る懐かしさを覚えた俺は『くじら』に呑まれていた。

『いいでありんす、いいでありんす、そのたけり切った感情大好物でありんす』

そして俺はブンシュの海の最下層へと沈んでいく。

所望しょもうするでなんし』

『茶番には、茶番にふさわしい場所があるでありんすうー』

 そして禍々まがまがしいに導かれブンシュの海の底へと引き込まれていった。

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