【完結】文書(ぶんしょ)ロイド文子シリーズ原典 『サッカ』 ~飽話(ほうわ)の時代を生きる皆さんへ~ 俺は何が何でも作家になりたい! そう、たとえ人間を《ヤメテ》でもなぁ!!
【第7話】ヤスフミとヨシナリの青春時代1《童話を作ろう》ミサキ先輩が小さい頃の話(※ヤスフミ視点)
【第7話】ヤスフミとヨシナリの青春時代1《童話を作ろう》ミサキ先輩が小さい頃の話(※ヤスフミ視点)
「いらっしゃーい……ってヤスフミさん! 今日は早いですね」
「先生、いる?」
「いますよ! ちょっと待って下さい」
ぱたぱたとスリッパを鳴らしながら奥の部屋に引っ込む先生の孫娘のミサキちゃん。子供は天使と言うけど、本当だと思える仕草だ。
「もう、大丈夫だそうです」
「ありがとう。小さな秘書さん」
「えへへ」
お礼に頭を撫でると、はにかんだ笑顔を返してくれる。ほんと、子犬みたいだ。
「とりあえず、こちらへどうぞ」
ミサキちゃん案内された和室には先客がいた。
「遅いぞ、ヤスフミ」
「悪い、遅れた」
「まったく、お前は、ここぞと言うときに限って……」
「というか、お前が早すぎるんだよ」
ヨシナリはチクリと言い放ってきた。時折イヤミったらしいが、私の事を心配してくれる良き友人だ。きっかけは先生が主催した大学生協向けの投書欄に投稿したのが私とヨシナリだけだったと言うこと。私はソフトエンジニア系の理系大学に通っていて、SF小説を趣味で書いていて、一方、ヨシナリの方は純文学にどっぷりはまった文系学生だった。投書後、通知というか先生直筆の手紙が来て、先生の自宅に案内された。そして先生のペンネーム『ヤスナリ』から半分ずつ名を与えてくれた。
先生に拾われたあの日から、私達は先生の弟子になったんだ。
私達は物語を楽しんでいた。話作りを真剣に考えていた。
これが、私たちの日常。それはとても幸せな日々だった。
「なんだ、じろじろ見て気持ち悪いな」
「いやあね、私達のコレまでの日々について少し振り返りをね」
「やっぱり気持ち悪いな」
「そりゃあねえでしょう」
そして私達の歓談が落ち着いた頃に
「……来てたか」
部屋の奥から幽鬼が出てきた時のようにオーラを放っている人物が出てくる。
「「先生」」
「ミサキ、席を外してくれるか?」
「はい、おじい様」
恭しく綺麗な礼をして退室するミサキちゃん。その姿を一瞥して先生は話を始める。
「これからする話は信じられないかもしれないが、全て事実だ」
そして語られるサッカの話。人を喰いものにする化け物達の話はにわかには信じがたかったが、先生は幼い頃にサッカに襲われた話を含め、真摯に語り聞かせてくれた。
「ふうっ」
話を聞き終わって私はため息をついていた。だってそうだろう、いきなり『人の世に潜み、魂を狩って神への物語を創る化物』の話をされたのだ。しかも先生自ら語りたくないであろうトラウマじみた記憶をぶっちゃけてくれたことを含めると、とても気楽にはいられない。
「そこで、だ、お前達に紹介したい人物……もとい、『サッカ』がいる」
「「サッカ?」」
私とヨシナリは怪訝そうに問い返す。先程まで語られたあやかしを今見せると言われているに近いからだ。だが、期待は裏切られる。
「お初にお目にかかります。我は
その声とともに、ゆっくりと、ふすまの奥からソレは姿を現した。金色の髪に
「この度は先生の元で人間について勉強したく」
恭しく礼をする青年に合わせてハタハタと揺らめいている天使の如き
ソレを見てしまえば、さすがに先生のして下さった話と目の前の存在を信じるほか無い。
「あの、おじい様」
そして、何か用事を思い出したのか、間の悪いタイミングでミサキちゃんが和室に入ってくる。
「こんにちわ、お嬢さん。我は中庸、先生の弟子をさせていただいております」
「以後、お見知りおきを」
相変わらず執事顔負けの見事な礼をミサキちゃんに披露する中庸。翼はとっくにどこかに仕舞ったのか見事に消えていた。
「綺麗」
中庸の姿に見惚れて呆けているミサキちゃん。これはアレだな。恋する乙女って感じだろうな。子供らしい何とも分かりやすい反応だ。
「こら、ミサキ。……といっても、もう遅いか」
「おじい様、ごめんなさい」
たしなめようとした先生はさっきの夢見心地の表情から一転、バツの悪そうにしているミサキちゃんを見て、ため息一つ。
「もう、いいだろう。まあ、結果的にお互いの顔合わせは済んだな」
そう、言葉を繋いで宣言する。
「これからお前達3人には、童話を書いて貰う」
「「「童話?」」」
これが、私達、人とサッカが共存した日々の始まり。かけがえのない青春の日々の記憶。
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