【第5話】たった一人にだけ当てた私の『物語』(おじさんと姪っ子の絆)《おじさん視点メイン》

 は精神に障がいがある姪(14歳)の面倒を見ている。

 たまたま1億そこそこの土地と遺産を引き継いだ警備員で金と女にはだらしない(同人誌とガンプラ買い漁り、風俗通いがやめられない素人童貞アラフォー)の事例だよ。

 といっても、姪っ子は『文字が読めない』ことと『話すことができない』だけなんだよ。まったく意思疎通・・・・出来ないわけではないから、僕は彼女のことをなんとか好きになろうとしてる。

 父親(僕の弟)からは。

「コイツが生まれたのは一家のだ! まだ後の妹弟を育てた方がマシだわ」

 そう言って、姪っ子に何の関わりも持とうとしない。あげくに。

「テメェみたいな人生・・の『落伍者らくごしゃ』にはコイツはお似合いの相手だわ。ハーハハハッ!」

 と、ののしる始末。そりゃあ、お前が銀行員で、かつ銀行員一族のサラブレッドの嫁をめとったからって、言い過ぎだよ。僕はまだしも姪っ子に対しての扱いがひどすぎる。


 でも、小説を書くことが好きでいつか作家になりたいと思ってた僕は姪っ子にも同じ趣味を持ってもらおうと、姪っ子に向けて童話や児童小説の朗読を始めた。

 役者よろしく全力で『演技』しつつ朗読していくと、ときおり笑顔を向けてくれるし、なんとなく物語を『理解』してはくれていると思った。

 だけど、意思疎通・・・・が出来ない。『ソレ』だけが耐えがたいほどに、狂おしいほどに、どうしようもなく不満・・だった。


 ――――姪っ子とコミュニケーションをこころみ始めてある程度の期間が経った

姪っ子の状態は医者達が言うには。

▼文字が『読めず』言葉を『発せない』障害。情緒が不安定になり、癇癪かんしゃくも度々起こす。一部では言葉を『認識・・せず』それによる知能の低下も弊害へいがいとして持っている。おまけに先天性・・・だ。▲

 急に視力を失ったり、手足を失ったり、言葉(発音・・)を失ったりというギャップからくる絶望感・・・は無いと思うが、いかんせん、いかにも天真爛漫てんしんらんまんというか、喜怒哀楽きどあいらくが激しいというか、急に感情が爆発したように反応されるとこっちとしてはどうしてもビクッとせざるをえない。要は『怖い』のだ。

 ……昔、就職活動で精神的な障がいのある人が入院する病棟の面接を受けに行ったことがあるけど、あそこの人たちには『恐怖・・』しか抱けなかった。だって意思疎通いしそつうができないんだもん!

【人は『未知のモノ』に根源こんげん的な『恐怖・・』を抱くという】

言葉・・が違うだけで。

自分とが違うだけで。

自分たちとは『異質・・』な者を『排除・・』する。

「だから『差別・・』が無くならないわけだよなぁ……ってのは僕も同じか……ハッ!」

自嘲じちょう気味につぶやく。


 小学校に入るか入らないかの年齢ですでに彼女の両親・・良心・・を持って接してはいなかった。無視に近いというか、彼女の妹や弟にかかりっきりになって(なる『フリ』をして)ほとんど構っていなかった。具体的には『教えること』を放棄した。

「いいじゃねぇかぁ!『底辺・・』同士、仲むつまじくほろんでくれ!」

は僕に対して容赦が無い。親の遺産をほぼ受け継いだ僕に対してのやっかみもあったんだろう。それに姪っ子に関わる日々の鬱憤うっぷんを僕にぶつけて発散・・しているだけなのかも知れない。

「その遺産をせいぜい俺の長女の為に使って『散財・・』してくれやぁ、ハッ!」

 言われて、怒りがこみ上げる。『コイツらはどれだけヒトを見下せば気が済むんだ!』と。しかし同時にこうも思う。僕もヤツらと同じなのではないかと。かわいい姪っ子のことを恐怖し、遠ざけ、無意識・・・差別・・しているは『テメェも同じだろうがっ!』と、言われている気がして、気が滅入る日々だ。


 いつか、エライ人が言っていた『知らないとは恐怖だ』のイミが痛いほど分かった。


 だから僕は文書ぶんしょロイドに手を出した。姪っ子のことをもっと【知りたい】と思ったのだ。頭の中を、ココロを、想いを彼女のにある世界・・を!


 そして僕はインターネット上で文子を手に入れる。


精神共有・・・・補助システム

有限会社 MUSTシステム 文書ぶんしょロイド『文子ふみこVer.2.75』※こちらは精神に障がいのある方を持つご家族の方専用に用意された特別・・プログラムです。精神世界の共有・・により、ワントゥワンで対話と【相互理解そうごりかい】をし進めることができる仕様・・となっております。

 ただし、度を過ぎた【共有・・】は人間からの『逸脱いつだつ』を加速させますのでご注意を。


少し文言が脅しめいていたけど気にせずダウンロード!

 そして僕は『文書ぶんしょロイド文子Ver.2.75』を手に入れて、姪っ子と精神世界を『共有・・』する。彼女が、僕が与えた『オハナシ』という『養分』を吸って、どんな大輪の『花(妄想世界・・・・)』を咲かせているか、とても気になったから。


 そして、姪っ子の精神世界はというと。


圧倒的・・・】だった。


 光に包まれた世界、巨大な世界樹、虹色の液体で構成された魚が空を飛ぶ、幻想的な世界。聖書の光景の一部を切り取った荘厳そうごんさと、異世界観の殊更ことさら強い感じが良い意味で混ざり合って引き立て合っている感じの心地よさ。あぁ、もぅ、自分に語彙力ごいりょくが無いのが恨めしい。


 これが、姪っ子の中の世界。満たされる。今まで姪っ子のことを理解出来なかった自分がどうでもよくなっていく…………。あぁ、もっと、もっとこの世界に溺れていたい。ずっとこの世界・・でひとつになって…………。


【警告:共有化が信仰・・しすギてオーりまシュ。しきゅうローグあうっとんをおぅ……】


 なんかバグった警告が聞こえた気がしたが、これで僕と姪っ子は【ひとつに】なれたんだと分かった。それはとてもここちよくて満たされて【キ☆モ☆チ☆ノ☆イ☆イ☆コ☆ト】で…………それ以来、僕と姪っ子のたましいは溶け合い解け合い混ざり合い、【ふたりで一緒・・にヒトをめてしまった】――――。






「で、今はこういった人外・・になったっていうわけェ~♪」


「やけにノリノリだな、オイ、このバケモノ」

「自分がヒトで無いことになんの不安も不幸も感じていないのはさすがです」

俺と文子はくだん魔物マ・モ・ノと対話しているが、ふとここで別のチャンネルから横やりが入った。


『ありがとう解放してくれて。やっとやっとおじさんのココロを私につなぎとめていられる』

 このつやのある声はおそらく姪っ子のものだろう。

 本当に、ほんとうに、解放・・されたのが心の底から嬉しいということが声音こわね(テレパシー)?からありありと伝わってきた。

『できた物語って普通・・はできるだけ大勢に読んでもらいたいと思うものなんだろうけど、わたしはそうじゃない』

 喜びのあまり一方的に持論を展開する姪っ子。

『わたしにとってはたったひとり大好きで大切な【ひと】おじさんにさえ見てもらえば、認めてくれれば、もうそれだけで満たされる。ココロがポカポカしてきもちいい』

『おじさんと身も心も繋がって溶け合ってぐちゃぐちゃに混ざり合ってひとつになれた。ここまでなれたのはひとえに我が身の障害・・ゆえかな。だからそういう意味ではちょっと得したのかもともおもってるんだぁ♪』

 清々すがすがしく語りきった声音こわねは、ヤりきった解放感に安堵あんども混ざって、気持ちのいいくらいに溌剌はつらつとしていた。なぜか無性に気に入らなかった。だから。

『ハッ! あんたは《たいした》作家・・だよ』

 ののしるように声(テレパシー)を張り上げて伝えてしまった。

『うらやましいんですね』

 文子のツッコミにも黙るしかない。

 だってそうだろ。

 あのおっさんは姪っ子の出したものならそれこそ『ブタのエサ』だってくうぞ!

 姪っ子の方だってどんな物語を作っても美味しいおいしいと食ってくれんだから、作りがいがあ、あるんだろうな!テンション爆上がりったあ、このことだ!

 本当に『メシうまああああーーー!』な関係だわ。

 だがしかし、よく考えたら、そうやってお互いがお互いに依存する『共依存きょういぞん』の関係になってるってことかあ。健全じゃあ、ねえなあ。

 そんなヌルイ状況、物語創作者ストーリーテラーとして許容出来るのか?

 考えが一瞬よぎるも、すぐに霧散むさんする。

 でもなんかいいなあ。2人とも幸せそうだし。そう思うゆえに。

「あの二人の関係性がうらやましいんですね? マスターとミサキ先輩の間には生まれなかったものですから」

「ああそうだよ」

 図星をつかれてイライラが増す。

「俺も、先輩にだ……先輩にだけ認められればそれでよかったのに……どうしてああなっちまったんだよ……ちくしょうめ」

 後悔とともに先輩と別離したときの光景がフラッシュバックされ、思わず項垂うなだれる。

「たった一組の読者と作者、しかしその関係はいたって良好」

「わぁーってるっていってんだろぅがっ!」

 思わず怒号で返す。


「?」


 おじさんはここだけ聞いても当然、理解はしていないみたいだ。


俺はココロのコエで姪っ子に対してぼやく。

『せいぜい幸福にヤれや! このバカップル共がっ!』


『ありがとう』


嬉しそうにほほえむ姪っ子はたまらなく妖艶ようえんだった。

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