【第3話】ネット小説投稿サイトの闇(※この物語はフィクションです)

――――僕はある小説投稿サイトにはまっている。そこの主流は異世界転生モノが多量にあるのだ。……だいたい異世界転生モノの主人公は我らが30代手前の20代後半だ。しかも、異世界に落ちる前(生前)は、キッチリと日々の仕事をこなすサラリーマン……でも、その社会精神が異世界での生き方を支え、異世界を少しづつ変えていく。そこが痛快(爽快)でたまらない。元々ラノベを読んで育った大人としての僕たちの分身・・とも言える存在。同世代の彼らの息吹いぶきは確かに存在して僕たちのふるわせてくれる。『架空かくう』だなんて言わせない。

 異世界で同胞どうほうが生きている。ある者は愚直ぐちょくに、ある者は飄々ひょうひょうと、そしてある者は真っ直ぐにたくましく全力・・で生きている。各々必死なのだ。だが、その姿がまぶしいのだ。元気・・を与えてくれるのだ。他人のような気がしない同世代・・・が頑張っている姿を錯覚さっかくできる。いや、彼らはそこに居る、居ると思わせてくれる何かを望む自分・・が居る。

 キャラクタービジネスにおいてヒトとキャラクターの関係にはいくつかある。主にはマスコット的にヒトの保護良くをかき立てる存在が多いが、自分と似通った存在として寄り添う形もある。ヒトはキャラクターに自己・・投影とうえいし、共に成長・・しようとする。今回・・まさにそれだ。

 ユダヤ人はくだんの大量虐殺事件があった後、世界中に散っていった。そして各々が世界中で活躍する同胞・・勇姿ゆうしを流し、国破れても民族は消えないことを悟ったという。

 あるいは世界中で頑張っている日本人に対して抱く感情・・とも似ている。

 これは愛国心あいこくしんというか、民族意識みんぞくいしきというか、同世代意識どうせだいいしきに似たようなモノかもしれない。

 他国(異世界で)同胞・・が頑張っている。周りからの叱責しっせきに、現状からの追い込みに対して自信が無くなり、自身・・が消失しかけそうになったとき、「まだまだ(自分達の世代・・も)捨てたもんじゃ無い」と思える。がんばれる。

 ……だから許せなかった。いや、許すことなど出来るはずが無かった。

「サッカ達には、はそいつらだった奴も居たんだ。お前は……お前は、お前はその『同胞どうほう』たちをもころしたんだあああーーー!」

 絶叫ぜっきょうしながら斬りかかった。




「――――ったく、うっとおしい」

 わめく男の意志を振り払うのに躍起やっきになっていた。最中さいちゅうこんなに騒がしい奴は初めてだわ、まったく。

「まるで躍り食いだな」

きがいいですね。意気いき遺棄いきいき♪」

ってろ、クソ野郎!」

 しゃしゃり出る文子をいなしながら男に向き合う。共感・・は出来た。素直な想いをぶつける。

「小説の主人公は平行世界の住人、そして『自分の』Ifの体現であるほど望ましい。だが、ここまで、これほどまで作家の創ったキャラクター(=作者の心の分身)を愛してくれている人間が居るとは……なかなか殊勝しゅしょう心意気こころいきを宿したヤツだな。嬉しいぞ。どうだ? 俺の仲間・・になんねえか?」

 だって、キャラクターが発する言葉・・は作家からの手紙・・なのだから。……自分を理解して欲しい、共感して欲しいという『未成年の主張』にも似た、つたない心の叫びなのだから。

『はっ、お断りだね、僕は『誇り高き読者・・(プレイヤー)』なんでね』

「そうか……残念だ」

 そうして男の意志・・は消えた……完全に消化・・されたようだ。

「拒否されたら、ミツバチの野郎の時のように、同化・・も出来ないしな」

 寂しげに呟く俺。そして何かが弾けた音がした。たぶんそれが自身の心だと気づいたときには、力なく笑っていた。

「はははは……せっかく、かけがえのない読者に会えたと思ったのにヤツは作家になることを拒んで……なんで、プレイヤーは作り手になり得ないんだろう? ……ほんとうにこんなにも(想いは)届かないもんなんかよ。いつもすれ違う。……やりきれねえ」

 疲れていく……心が徐々に軋んでいく。


 そしてどれくらい狩り続けたかは分からない…………ただ、油断していたんだと思う…………だって俺達・・はいつのまにか、多数の『プレイヤー』もとい【文子Ver.3.00】ユーザーたる『第三世代作家・・・・・・』の連中に囲まれていたのだから。

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