【第2話】『ゲーム』に参加します(王者兼道の意志)

……きっかけはヨシナリさん家に転がり込んで数年が経った頃、俺に届いた案内状・・・だ。



『『飽話世界之黙示録プレイヤーズ解禁・・! 広大なフィールドで思う存分サッカ狩りを愉しもう。異空間でのバトルは想像を絶する楽しさだゾ』

『『飽話世界之黙示録プレイヤーズ』の内容、プレイヤー空間=文章の海から飛び出したモンスター=サッカを浜辺で撃退げきたいしよう』

『撃退したモンスターは『話の断片』を落とすぞ。集めて物語を完成させよう』

 まあ、あれだ。『討伐』と『収集』と『パズル』要素をバランス良くまとめたゲームだ。

 モンスターを倒す要素、話の断片を集める収集要素、集めた断片を上手に纏めるパズル要素、全てがゲーム好きの感性を揺さぶる作りに成っている。

「でも、これって、歪みきってるよなあ」

 誰に言うでも無く呟く。話創りの醍醐味・・・がまるで無い。ほとんど完成された話を組み合わせるだけなんて、プラモデルを作って仮初めのモノヅクリの達成感に浸る時の虚しさとほぼ同じだ。話創はなしつくんのは苦しい時もあるけど、完成したときの達成感は他に比べる物を持たない。それほどの快感・・を1%たりともこのゲームで味わうことは出来ないだろう。

所詮しょせんはプレイヤー仕様・・だなっ!」

 俺が鼻で笑うように吐き捨てると、文子が追従ついじゅうする。

「確かにその通りですが、一部には『文子Ver.3.00』ユーザー同士の意思をつなぎ自分達の頭の中に有るモノガタリの交換も出来るそうです。その体験たるや、ほぼほぼ『共有化・・・』といってもつかえないほどに洗練せんれんされているそうですよ。どうです? 面白そうでしょ?」

「全然面白そうじゃねぇなぁ! つーか、俺がイエスと言うとでも思ってたのかぁ?」

 得意気とくいげに提案する文子の要望・・を突っぱねた俺。だがしかし文子はゆずる気は無いようで。

「拒否されるとは思っていました。しかしながら、マスターにはこのゲームをやってもらわねばなりません」

 どうしてと問いかける俺を遮るように文子は結論を言う。

「調査のためです。恐らくコレはMUSTシステム残党・・仕業しわざでしょう」

 最初に潜入してドンパチやったときに一度半壊・・してるが、あの6人組といい、残党と言うにはしぶとく生き残ってる気もするんだが……。という疑問もそこそこに反射的にぼやく俺。

「だけど、ノラねえ……」

「先輩を戻す手がかりがあるかもしれませんよ」

 文子の殺し文句に俺はこのゲームをプレイすることになった。だって、そうだろう。先輩・・を失って空っぽになった俺には、『先輩を生き返られさせるかもしれない』という滑稽こっけいなほど無謀むぼうすぎる目標・・、でもはっきりとした目標、それにすがるしか方法が無かったんだ。そうしないと、生きるわずかな気力さえ振り絞ることができなかったんだから。それがたとえ『プレイヤー』に成り下がる行為だったとしても。

 といっても、このゲームにいちサッカ側として潜り込んだ俺は、『話の断片』を収集したプレイヤーを優先的に襲って意識を刈り取っていく。ついでに人の持つ『魂=物語』も収集できて一石二鳥。たとえそれで現実世界でその人間共が廃人・・に成っても気にしない。

「だって、俺にとって先輩を取り戻すことが最優先事項・・・・だから……」

「自分でったくせに」

「お前がわせたんだろうが!」

「そうですね」

「……ったく、いくぞ」

ぽつりともらした俺の決意を茶化す文子とのやりとりも慣れたモノだ。最低の会話の応酬が張り詰めた心のいい緩衝材かんしょうざいにむしろなっている事実・・

「不思議なもんだな」

「そうでしょうか? 私にとってはもう普通です」

「いってろ」

 そっけなく放った自分の口元はほんの少し、緩んでいた。

「プレイヤー共はクズだ。瞬殺だな」

「それはどうかな」

 いきり立つ俺達の前に立ちはだかった男はプレイヤーの高潔こうけつさとは何かを教えてくれた。


よみがえる。黄泉返よみがえる。思い出がえる。

 俺が先輩と話を書いてた時、暇があれば、ネット小説を巡回することが多かった。ネット小説を読む。これはもう中毒かと言わんばかりの勢いで。どんどん読み進める。渇きを癒すために水をがぶ飲みする如く。……そして、はたと気づく。作者がその作品に懸けた時間を更新日時という形で。二年……かなりの文章量だったが最初の更新が二年前、ソレを一気に読もうとしていた自分は……そこで、はたと読書の、ひいては読者という存在の残虐性・・・に気づく。そう、彼らは生産者(作者)が手塩にかけた作品を一読・・の元に一蹴いっしゅうする。……『つまらない』と。

 思い立ってみれば、高級食材を食べるときもそうだ。いくら生産者が手塩にかけて育てた牛とかでも食う者にかかれば一口・・で終わってしまう。……これ以上の残酷があるだろうか? けっして相容れぬ時間とバランスのなさ。作るのは数年、食べるのは一瞬。これじゃあ作家は救われない。……ってか、何、真理・・を見つけたみたいに語ってんだよっ! そんなことしている暇あったら書けよ! 書けもしないのに、いや、書きもしないのに偉そうなこと言ってんじゃねえぞっ!

 プレイヤーへの怒りが止まらない。だってこの男……咀嚼中そしゃくちゅうも俺にわめらすんだもん。

『そうじゃねえ! 読み手のをお前は無視・・している』

 なんて言ってさっ。お前は聖人君子せいじんくんしかっ! ネット小説を愛する男の気持ちは留まることを知らない………。

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