【第19話】『至高性対サッカ刀=ペーパーナイフ2』のイリョクを見よ!(ようやっとメイ討伐完了?)


――――俺達・・の意識は現実に戻ってくる。


『アンの野郎……たった一人の友達・・を見返したい、振り向かせたかったなんてよお、いじらしいじゃねえか』

 感慨にふけるミツバチ。

 対して記憶の戻った(というより俺がメイの身体を一部喰くらった事により、存在の奥底にとごっていた記憶・・の残りかすが活性化した)メイは、絶叫ぜっきょうしていた。


「あああああああああーーーーーーー!」


「私は、わたしは、神に造ってもらったわけでは……おぞましい、おぞましい、人間がだと……そんなこと、そんな事実、認めない! みとめないいいいーーーー!」


「おまえ、ほんっとうに、人間軽蔑・・してたんだな。よかった、本音・・聞けて」


 対してはドライに言葉を返す。文字・・通り心が渇き切っていた。

 同情の余地など欠片も見当たらない。

 そう、記憶がよみがえってもコノ反応なのだ。

 コイツの昔はとうに消え失せている。


 容赦はしない。


「いいな」

『ああ、やってくれ』

 一応、ミツバチに一声かける。彼も友の想いを踏みにじり、目の前で醜態しゅうたいをさらすかつての上司・・に未練は無いようだ。


文子ふみこ行くぞ」

「了解しました。ゲートオープン。『至高性対ペーパーナサッカイフ2』展開」


 俺の目の前に開いたブンシュの海の裂け目から解き放たれた人間の背丈ほどある巨大なペーパーナイフが俺に突撃してくる。


「いつ見てもきがいいなあ」


 その刀身をギリギリでかわし、束をひっつかむ。

 ペーパーナイフは「ブヒン」とひと鳴きすると、身震いさせ刀身を俺に預けた。


「さあ、アイツを殺るぞ」

「ブヒヒーーーン」


 目標を定めた俺は勢いのままメイを切り裂く。


「ぬがあああーーーー!」


 メイの断末魔・・・とともに場に静寂が訪れるはずだった。


 光の粒子になって消えていくメイ。

 だがすぐさま、メイの上空に開いたブンシュの海の裂け目から大量のあお奔流ほんりゅうが流れ落ち、そこにはすっかり落ち着きを取り戻したメイの姿。


「無駄だ。かみの前には人間の想いなど軽くてつたない」


 先ほどの狼狽ろうばいっぷりがウソのように淡々と詭弁きべんをたれる。


「身体が崩壊すればリサイクルされる。私は常に一定の状態を保つように神に設計・・されている」


 その言いぶりから、おそらく記憶・・もリセットされたんだろう。

 俺は構える。

 一方、俺達・・を全く驚異・・と感じていないメイは余裕・・しゃくしゃくで更に詭弁きべんを重ねていく。


「人間はモノガタリを作るための奴隷・・、いや素材・・でしかない。そこが人間の限界・・だ。まあ、私が思っている人の『価値・・限界・・)』はそれ以上でもなく、それ以下でもない価値・・。つまりある意味『均一・・』で『安定・・』している感覚・・だ。そういう意味では私は人間・・をある程度・・は『評価・・』しているつもりだがな。そう、人間・・モノガタリを造るための『素材・・』でしかない」


「おまえはなんでそこまで人間にあきらめを覚えるんだっ!」


「人間は我々・・搾取さくしゅされるだけの存在・・だ。つまり家畜かちく。その関係性・・・を示した上であえて問おう」


 メイは言い聞かせるでも無く、学者が淡々と論述ろんじゅつするようにつぶやく。


家畜・・に期待してどうする?」


 無慈悲むじひな響き。


「『コイツ、悪魔アクマだ』」


 このメイに対する著しい不快感・・・をもって俺とミツバチの意識・・一致・・する。


「『うおおおおおおおーーーーーー!』」


 ミツバチの分も上乗せした怒り真っ赤に染まったペーパーナイフを握り込み、渾身こんしんの力で突進する。

 だがメイは事もなげにつぶやき。


「……フンッ」


 軽く俺達をあしらってしまった。


「じゃあな」


 興味なさげに手を振るったメイの前の前にブンシュの海への入り口が出現し、でもコレは入り口と言うよりブラックホールのようで、強力な吸引力・・・ともなっていた。


「……あまり面白くなかったな」


 人間味・・・一切・・削ぎ落とした単調・・言葉・・最後・・俺達・・意識・・はブンシュの海の『深淵しんえん』へと沈んでいった。


「メイ、さん、マジ悪魔・・! 人間を家畜・・使い。でも家畜はには成らないかあ」


 思わず、ついさっきの状況・・をつぶやくほど、心地いい倒錯感とうさくかんに包まれていく。

 自分がこのまま消滅しようが構わないと言うほどに全てがどうでも良くなる。

 これがブンシュの海にちることかと達観たっかんしていくが、そうもいかない。

 ……時折ときおり、巨大な生物・・の影を感じ、恐怖する。

 無理も無い。

 ブンシュの海の魔物マ・モ・ノ千切ちぎわれた少女のさま生々なまなましくよみがえる。

 ああは成りたくない……を感じ達観たっかんしようとも根源的・・・かつ生理的・・・恐怖・・はぬぐいようもない。


 ながなが時間とき……どれくらい落ちただろうか?

 永遠とわにも感じる暗闇・・の中、次第にぼそぼそと幽霊・・のように漂ってくる声が混じり始める。


「うわああ、何コレ様々な声が、記憶・・が、渦巻いている……」


『先ほど私が取得した『全作家記憶集積回路ノベルキューブ』の力でしょう。この海に溶け込んだ様々な存在の記憶と意志を拾っているのです』


 文子ふみこ解説・・が続く。

 いつの間にそんな能力を!

 というツッコミは無しだ。

 今更、文子の能力拡張かくちょうに驚いても仕方が無い。

 文子の姿が無く、俺と同化? していることも含めて。


「そういう物だと理解するしか無い」


 そんな俺の心を読んだかのような軽口をして、現われたのは、このとめどない意志・・奔流ほんりゅうから俺を助けようとする『ヤスナリさん』という老人の意志・・だった。

 どうやらヤスナリさんはとある理由・・精神・・だけの存在・・となってこの海を回遊・・していたらしい。

 今なら俺を現実・・の世界へと戻す事が出来るということで、交換条件・・・・を出された。

 そして俺は是が非でも無く飛び付いた。

 こんなとこで魔物マ・モ・ノのエサになるという恐怖・・には勝てなかったからだ。


「私をってくれないか?」


 告げられたのはシンプルかつ一方的な願い。

 ヤスナリさん曰く、とうに時間の感覚も忘れ、光の無い世界で、困り果てたところに俺の放つ『全作家記憶集積回路ノベルキューブ』の光が目についたということだ。

 その光が希望・・に見えたんだろう。自身の存在・・を強め、他の意志・・から俺を守りつつ千載一遇せんざいいちぐうのチャンスを逃すまいと交渉・・を持ちかけたらしい。

 ヤスナリさんはただ一言。


えば分かる」と。



そして俺はヤスナリさんの最後・・垣間見かいまみる。

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