【完結】文書(ぶんしょ)ロイド文子シリーズ原典 『サッカ』 ~飽話(ほうわ)の時代を生きる皆さんへ~ 俺は何が何でも作家になりたい! そう、たとえ人間を《ヤメテ》でもなぁ!!
【第17話】謝罪文は時には謝罪ではなくありのままを語る潔さも大事(メイが『サッカ』に転生したワケ3)
【第17話】謝罪文は時には謝罪ではなくありのままを語る潔さも大事(メイが『サッカ』に転生したワケ3)
はじめまして。『サッカ』を執筆致しました、明道です。
私の話に影響を受けた犯人による痛ましい一家惨殺事件が起きました。
犯人は十五歳になるその家の長男で、『サッカ』の熱心な読者だったと聞きました。そして将来に不安を抱えていたこと、作家を目指していたこと、作品内の描写で『人を外れて作家になる』という感覚を知って思い悩んでいたことも。それだけ私の創った作品のメッセージを受け止めようとしてくれていたのだと思います。だから私は言い訳はしません。ただ、一つだけ犯人の彼に今、伝えたいことがあります。
なんでもいいから、どんなときでも書いて欲しかった。ノートに、原稿用紙に、なんでもいい、『今』の気持ちをぶつけて欲しかったと。想いを留めて欲しかったと。
本来はそのメッセージを作品内で伝えきるべきですが、己の筆力が足りないばかりに彼に伝えることが出来ませんでした。このような場で作品の外で作家として主張するのは甚だ恥ずかしいばかりですが、恥を承知で述べさせていただきます。
本当に自分は今回たまたま賞を取った人間です。でもずっとアマチュアだったとしても続けていたでしょう。だが、その中でたった一つだけ言えること、『小説を書くという行為が無ければ何かしらの事件を起こしていた自覚』です。
このデビュー作も、最初に書き上げた全然別のアマチュア作品も、執筆当時わき上がった果てしない怒りから創った話です。話を書き上げなければ、話にしなければ、私は恐らくその怒りを与えた相手を殺していたでしょう。だか、話を書き上げたことで、憎い相手は、最大の功労者となった。
そういう意味では私は小説を書くという行為に常に救われてきたのです。
あなたも小説を作る、日々の出来事を小説の素材とする、というワンクッションがあれば『留まれて』いたかもしれない。
作家なんて一歩間違えば犯罪者です。普通なら犯罪を犯してしまいそうな激しい感情の渦を抱えている。そして絵描きが感情をキャンバスにぶつけるように、激しい感情の流れを勢いにまかせるまま物語にして、原稿にぶつけて凌いで、犯罪手前でかろうじて踏み留まっているんです。本当にギリギリです。でも少なくとも私はそういう思いでいたからアマチュア作家をなんとか続けてこれました。
妄想の中では何でも出来ます。どんな悪いことをしても許されます。私自身、中学三年生の頃、私のことを執拗にいじめていた同級生を頭の中で何度も殺しました。そして心の平穏を保っていました。私にとって妄想という行為はすべからく心の安定剤だったのです。いじめを受けたことによって、妄想という行為は誰にもどこにも穢されない人間が持つ最後の自由、そして話の創作はそれに最も寄り添う形の人が持つ一番の特権だと私は確信するようなりました。
しかし、妄想は創作物として頭の外に出した途端に許されなくなる時があります。あなたを惑わせてしまった。すごく苦しんだでしょう、苦しんで苦しんで私の話の登場人物達にわずかでも共感し、救いを求めた、あるいは一緒に乗り越えようとしたのでしょう。私はそんなあなたを想って泣きました。大人になって枯れたと思った涙があふれてきました。十数年来本当に久しぶりにです。そして私は自分がどうするか決めました。
私の思いをあなたに『引き継ぐ』と。あなたには作家になって欲しいと。状況は大変です。でも、あきらめないで。話を創る時、私は初めて自分と向き合えます。悪い自分、弱い自分、どうしようもない自分、そんな中で輝く自分がひょんなとこに潜んでいたり。とにかく話を創る意思を絶やさないで。
話はどこでも、どんなときでも創れます。まずは頭の中で妄想ならいくらでも。その感覚を持ち続けて。さっきも言ったけど妄想は人に許された最後の自由。それを忘れないで。
私はアマチュアに戻ってまた一から出直します。こんどはいつ作家になれるか分かりませんが、もう一度話を創り続けながら、自分と向き合い、生き続けてみます。
だからあなたもあきらめないで。自分と向き合い続けて。話を書き続けてみて。出来たら編集部宛に送ってみて。必ず目を通すから。アマチュアになっても、あなたの話は読めるようにして貰うから。
最後の方は一方的な私から彼への呼びかけになってしまいましたが、話を創る行為を通して犯罪寸前で踏みとどまろうとする考えは世の中に不満を抱えて犯罪に走る事件が報道される度に私がいつも感じていた憂いでもあります。そんなに不満やエネルギーがあるなら話の素材にすれば良かったのにと。そして、話を書けば良かったのにと。
最後に、あえて謝罪では無く意見としてくれた編集長の英断と私の意見をそのまま掲載していただいた懐の広い編集部の皆様への惜しみない賞賛と限りない感謝を捧げたい。
明道
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