【第10話】人の一生はテメェらのオモチャじゃねェ!(神の使いがまき散らすこの世の不条理)


「今までの記憶見ただろ」


 そして俺がミツバチをった現場・・にてもう一度懇願こんがんされる。


『だから、この先を見届けさせて欲しいんだ……ほんと、それが心残・・りで』


「そういってもなあ……」

「いいのではないですか? マスター」

 めずらしく文子ふみこは乗り気だ。

 どうやら俺がこの経験・・を乗り越えることでより良い話を作れると思っているみたいだ。


「でもどうやって?」

「簡単です。マスター。拒否せずミツバチを受け入れて下さい。そして」

 文子に言われるまま、身体をこのミツバチの姿に変える。ミツバチと意識を同調させたら意外にも簡単に出来た。


「さすが、マスター」

 俺のとなりたたずむ文子はどこか得意げだ。

 俺って何でも出来ると思われてないか?





 老人はホームレスのまま、寿命・・まっとうしようとしていた。


「つまらないじんせいだった」


 その一言が自分は老人の人生をただ淡々たんたんえがき出す。

 でもソレでいいと思う。アンに言われた通りドラマチックにする気など毛頭もうとう無い。


 そう、余計・・な『味付け』は必要ない。




 老人が果てていく様をただ粛々と見守るミツバチ。

 ソレを見て俺も感じた。

 ああ、たしかにこの『味付け』でいいと。

 そして俺はヨシナリさんの話を理解・・した。

 みんな話にかりすぎて不感症・・・になっているんだと思う。

 だから『濃い味付け』じゃないと何も感じない。

 でも、ミツバチがしたような『薄い味付け』でいいんだ。

 そう、感じることが出来た。



「ちょっと、よわいなあー」


 ことさら明るく話す少年の天使が舞い降りた時、その時奇跡が起った。老人の目の前に一人の女性が姿を現す。

 生き別れになっていただ。

 目を見開いて震える老人。そして道路を渡り、老人に駆け寄ろうとする娘を無慈悲むじひにもトラックがきつぶす。

 先ほどの姿勢を崩さぬまま老人は慟哭どうこくし崩れ落ちて息を引き取る。



「こんくらい『味付け』しないと」


 したり顔で舞い降りて。


「奇跡ってのはこう使う事!」


 親指・・を立てて「分かった?」とでも言いたげな姿


『アン! てめえええええええーーーー!』

 俺の身体が引っ張られる。

 ミツバチの意識・・暴走・・しているのだろう。なまじ老人に愛着・・があっただけに激高げきこうぶりが半端はんぱない。


『人間をなんだと思ってんだああああーーーーー!』

 サッカ達神の使いは人の一生をオモチャのようにもてあそんで、つまらないならゴミのように捨てていく、これこそこの世の不条理・・・ではないか。


「はっは、むだむだむだあ」

 アンは手慣れた仕草しぐさで倒れた老人からをかすめ取ると、俺達の攻撃をかわしながら、


「まったく、暑苦しいねえ」

『がああーーーーー!』


 突然、ミツバチが俺の喰欲しょくよく刺激・・し、腹の辺りに強烈なうずきを刻み込む。


『喰らえやああああーーーー!』

 その一言で俺の身体・・が跳ねた。

 昔あったアニメでカエルがシャツと同化した少年のごと一直線・・・にアンにらい付く。


「がっ」


 予想外の動きに呆気あっけにとられ。



「うそ……だろ」



 崩れ落ちるアン、そしてアンの秘めたる想いがつらぬいた。

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