【第4話】読む人に合わせて書くべし(師弟で物語創作談義)

――――なんか本能・・って嫌だな。


 俺はそんな感想を元にヨシナリさん家を訪れる。そ

 してヨシナリさんの講義が展開した。


「なんでみんなそんな辛い味付けを好むかなあ? この際、薄味でもいいと私は思うんだ」

 ヨシナリさんの見解は、先輩・・と似ているようでどこか割り切ったように見えた。

「人が死ななければ成り立たない話、そこまで過激な話にしないと満足できない現代人。もはや感覚障害だよね」

「でも、そんな中にも希望はある」

「例えば少女マンガ。二人で手を繋ぐというだけの事に向けて、ありえないほどの盛り上がりを創っていける手法、そして読者にとってその盛り上がりは下手をすれば物語で人が死ぬ瞬間をも超える」


「後はな」と意味深気にヨシナリさんは言葉を続ける。


専業作家・・・・となることは、社会・・かられるってことなんだよ、うらやましいねえ」


「おまえら『サッカ』もそうだろう? しがらみから解放・・されて、悠々自適ゆうゆうじてきモノガタリを作れるってなもんさぁ」


「だが、忘れちゃいけねえことが二つある。まず一つ、社会から外れるということは、良質のネタの宝庫・・から遠ざかるってことなんだよ。そして二つ目、自分の書いた話を読む読者はどこに属しているか? 答えは簡単、社会・・だ。なので、尚更、社会との繋がりを手放すのは愚行・・さ」


「だから私はサッカのなり損ないとして社会・・している」

 とヨシナリさんは笑う。


「だが、例外がある。お前等のクライアント読者である『』だよ」


「ちょっとコレ見てみい」


 本棚から出されたヨシナリさんが創った話を見て俺はうっかりヨシナリさんの作品を『普通』と言ってしまった。そんな俺を気にせず、ヨシナリさんは講義を続ける。


「なあ、王ちゃん。なんで私の話が『普通』か分かるか?」


「いや、全然。もしかして『わざと』そうしてんのか?」


「そうさ。というより実は世の中のほとんどの話は『普通』なのさ。……なぜなら、読者が『普通・・(の人間)』だから」


「じゃあ、神様に向けた話は『普通』じゃ無理じゃねえかっ」


「違えねえや!」


 俺達は吹っ切れたように快活かいかつに笑った。

 作家論をわすウチに少しづつ俺はヨシナリさんに心を開き、やがて『共同・・執筆者』となる。


「王ちゃんの見た話、全部私が形にしてやんよっ」

 と語るヨシナリさんは非常に頼もしい。

 なんでも物語を創る行為はサッカたる己の喰欲しょくよく暴走・・をある程度押さえるらしいし、何かしらの物語を完成させるという先輩とのかつての約束を果たしたかったのだ。




 俺はヨシナリさん家に入り浸るようになった。

 ヨシナリさんは奥さんと子供もいる、本当に至って普通すぎるほど普通の『人間・・』だ。

 そして人間のまま作家であろうとする珍しい人間だ。

 少なくとも俺はそう思っている。

 作家・・という生き物はいい話を作る為ならどこか『れて』もいいと思っているといまだに信じているからだ。



 文子を手にし、先輩の心をった自分自身・・・・がまさにそうだったのだから。

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