【第3話】とりあえずはザコから味わってみよう(『サッカ』たちはおかしなお菓子の味がする?)

あるサッカの記憶(インタビュー風)



 私が初めて一本書き上げた長編のソース(要素)はある人間に対する殺意にも似た『怒り』でした。

 感じた瞬間は眠ることさえ出来ないほどの。

 感情は必要です。喜、怒、哀、楽、自分にとっての話を書くために必要なガソリンは己自身の感情です。

 そしてソレを燃やして、話を書いていきます。

 なので、感情の爆発(私はよくコレを『テンション』と言っていますが)をいかに維持するか。

 これに尽きます。

 そういう意味では私は天然・・系の『話屋はなしや』なのかもしれません。そしてこの感情を維持するために会社に通っています。

 感情の素材は『ストレス』です。

 社会と接していると、何もしなくてもストレスの方からこちらに舞い込んで来ます。

 その意味では楽です。

 それだけで仕事を続けています。

 自分の作ったキャラクターも自身の心を切り売りした物になっています。

 そのおかげで、キャラクターがより『自分のことのように』動いて、物語を面白くしてくれるのです。

 ただ、そこに『限界・・』があるともうすうす感じています。


 天然系話屋は爆発力・・・がある代わりに、非常に短命・・です。


 自分を切り売りしたところで限界があります。

 だけど、いけるところまで突っ走って生きたい。

 それが自分の『在り方』だと思います。

 限界ギリギリまで出版社に貢献し、燃え尽きたら捨てられる。非常に分かりやすい生き方。


 最後は自殺だろうな。

 だってもう『用済・・み』なんだもん。


 でも、やだなあ。

 それってったぶんやらないだろうなあ。

 余命半年って言われても往生際悪く死ぬギリギリまで書いてそうだし。

 死なない限りは悪あがきのように物語を書き続けるんだろうなあ。

 だったら、いっそ、殺してくれよ。

 作家専門の殺し屋とかさあ、命を断ってくれよ、理不尽にさあ。



「了解した」



 そして意識が途絶える。ああ、やっと『救われた』気分だ。





「……このサッカは御菓子おかしいですね」

「言うな、文子。こんな『よく分からない』はじめてだ」

「そうですか? 私にはすごく甘く感じました。自分に『甘い』という意味で」


 俺が狩ったこのサッカは相当に自分のやりかた(書き方)が好きだったのだろう。


 文子のブラックジョークに反応出来ないほど俺はひどく憔悴しょうすいしていた。


 サッカをらうことは、常に己自身の作家像・・・とのり合わせを余儀よぎなくされる。コイツはかつての自分に非常に近しかった。だから苦しいんだろう。



 吐き気をもよおすすほどに。



死因しいんですね」


 ケタケタと楽しそうに笑う文子に俺は精一杯主張する。


「うるせえ、俺は死なねえ! 全て(の話)をらいくすまではなっ!」


「でしょうね」そういって微笑む文子を射殺さん勢いで俺はにらみ続けていた。






 また別のサッカの記憶はただただ気持ち悪かった。

 ……静脈・・フェティシズムだっけ。



 私は静脈に目が無い。

 静脈じょうみゃく静脈じょうみゃく上麻薬じょうまやく……失礼、変換を間違えた、が、起るほどに、静脈を愛するフェティッシュの奴隷。その一員。


 会社の飲み会で静脈の浮き出ている娘を見つけては静脈占いを繰り返す。

 意外と当たると言うことで、いつのまにか変に有名になってしまったが。

「今日は、どんな女の子の静脈をのぞこうかなあ~?」

 そしていつしか会社を辞めた私は本当に静脈占いを始めてしまった。

 意外にも覚醒剤に手を出しすぎた娘が多かったが、私の『天啓・・』を受けると、己を認められた歓喜に震え、ひざまずいていった。

 私は『救世主メ・シ・ア』になった。

「ははっ、いいぞ。もっとだ。もっともっと静脈を愛するのだあー。ひゃはあああー!」

 私は暗い部屋の中で立ち上がり歓喜していた。

 静脈の良さをつらつら随筆ずいひつした文章をネットにさらしていた。

 そんな時だ。


 私がブンシュの海に呑まれたのは。


「あなたの文章、なんかマズそう……、でもちょっと食べてみたいな」

 そんな声が聞こえたかと思うと、天井からから生命のスープをひっくり返したような淡くあおい光が滝のように降り注いだ。溶岩のように熱い奔流ほんりゅうは私の意思を身体ごとそっくりそのままあっさりと溶かしてしまった。

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