【第6話】MUST社潜入! 中編(『文子』で初戦闘:命を燃やして踊れ:表現者の神髄)

◆有限会社 MUSTシステム 社訓しゃくん その2◆

「【社員全員をなすべし! 

 そして、『人類じんるいため』そのを『ささげられる』者のみがまこと社員しゃいんたり得る。

 ……はっきり言おう。三歳にたっした嫡子ちゃくし文子ふみこを宿らせよ! これがヒトとしての義務ぎむである】」


 流暢りゅうちょう蕩蕩とうとうとのたくる女。かたわらにいる生気せいきの無いむすめうつろなひとみで母親の姿を見る。


「ハッ、つくづくヒトを『はずれた』奴等ヤツらだなあ」


 吐き捨てた俺を虚ろな瞳をした少女が見据える。

 ソレが合図になったかのように、見覚えの有るあの空間が出現、相手の女が宣言せんげんする。


『ここが【ブンシュのうみ文子使ふみこつかいにしか踏み込めない、かみ領域りょういきよ!』


「また、この空間か。といってもいつ来ても訳の分からない空間だなあ」


『今なら答えることが出来ます』


「本当なのか文子?」


『なぜか急に私の機能キノウ拡張かくちょうされました。したがってこの状況も解説ができます』


 たずねる俺に文子が得意げに答えてくれた。


『【詳細解説:ブンシュの海とは『ものがたり』に関する『スベテ』が詰まった不思議な空間。『ソレ』は不思議な裂け目として現実世界に現れ、作家さっかを招き入れる。入った作家さっか二度にどと戻っては来ない。……という、都市伝説としでんせつ。※無論、『作家』には作家志望者さっかしぼうしゃも含まれる】』


「……なんていうか、こう、何でもありな空間なのなあ」


「始めます」

 さとる俺に、向かいの三歳くらいの少女が放つ。およそ年相応で無い冷淡れいたんな宣言で戦闘が始まった。


 ……といっても、あの時の風景と変わらない。相変わらず天地てんちのひっくり返った海に俺の頭はかりっぱなしだったし、それは相手の女も一緒だった。そして俺達の頭の中から染み出した躍動やくどうする象形しょうけい文字のごとき黒いかたまりが海の中へと解き放たれた。


 ただあの時と違う点が一つだけ。それは、おどり出した文字達もじたちの数が圧倒的に多いこと。まさにれといわんばかりに。


「あがあああーーーー!」


「おほほっおほーーッ!」


 頭の中を根こそぎ吸い取られる激痛げきつうに叫ぶ俺とは対照的に、相手の女は常習化した麻薬中毒者マヤクチュウドクシャのように同じ痛みを白目をむいて嬉嬉ききとして受け入れている。


「さあ、行くわひょおおおーーー!!」


 女の語尾ごびはもはや言葉コトバになっていない。


 そして、文字達は海の中で激突ゲキトツした。

 お互いがお互いを喰らい合う消耗戦。

 みるみるうちにその数を減らしていく。


 その様子を見ながら俺は、たまに健康食品のCMで見る善玉菌ぜんだまきん悪玉菌あくだまきんい合いを思い出していた。

 一方、海の外の白い空間を見れば、文書ぶんしょロイドたる文子ふみこと相手の少女は指揮者しきしゃのように手を振っていた。

 おそらく文字達の群れを操ってでもいるんだろうか?

 にしても実感は全く感じない。

 というか、何コノ茶番!

 という感じだ。


 俺と女は、お互いの頭から出した文章の怪物カイブツ同士をけしかけあって戦わせていたが、ソレも唐突に終わりを告げる。

 だって自ら動かず、代わりのモンスターに戦わせて……なんて、全然現実感がない。

 もう、俺自身が我慢が出来なくなってきたからだ。



 さるアーティストが言っていた。

 インドに旅行に行った日のこと、出くわした川のほとりで遺体を火葬にする場面。布にくるまれた遺体は油をかけて焼かれ、煙がもうもうとたちのぼる。

 自らの居場所をてんしめすかのように。

 そして肉が燃え、いよいよ骨が炎に包まれようとしたとき、バチンと、熱せられた骨が爆発する。


 それはまるで叫びのようだったと。


 人間は死ぬまでさけび、さけび明かして、寸前スンゼンまでさけびやがるんだ。と。


 そう、さけびだ。俺は全力でさけぶ。



「ああああああああああーーーー!」



 アタマをブンシュの海にけていたが、そこから抜け出し、さけびと共におどり出る。文子達がいる場所で激しくおどり出す俺。

 文章も俺の周りをまとわりつき、自分の周りでおどり出す。

 実感、すなわち自分で動かないと生きた感じがしないんだ。


「楽しそう……」


 相手の女の子(+文書ぶんしょロイド)も、けしかけていた文章ぶんしょう達と一緒に俺の隣に来る。そして。


「……一緒におどる」


『やめなさい』とたしなめる母親の意見など一切聞かず、俺と張り合うように激しくおどり出す。思えば会ってから初めてこの子に人間ニンゲンらしさを感じれた瞬間だった。


 そうだ

 命を燃やしておどるんだ!

 全身でさけくそう、やしくそう。

 これが表現者ヒョウゲンシャなんだ。





『美味しそうでありんす』




 そしていつの間にかおどり勝負のノリになっていた俺達は忘れていた。



 ……俺達以外・・の気配がその場に有ったことを。

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