【第5話】MUST社潜入! 前編(『文子』の仕様と『サッカ』というバケモノの概要)


 その頃、日本のとある場所では着々と文書ロイドの開発が進行していた。

 俺はソコに潜入することになった。

 ……と言えば、聞こえはいいが、要するにビビッたのだ。

 だからコソッと行くことにしただけ。

 だが、そこで俺はMUSTシステムの恐るべき陰謀いんぼうを知ることになった。



 そこは、どこにでもある小さな雑居ビルだった。MUSTシステムは二階にあったが、一階がよくわかんない新興宗教の事務所だったりと危ないにおいがする。まあ、そもそも有限会社って時点で怪しさ満点なんだけど。

 階段をそろそろと登りMUSTシステムの入り口にたどり着く。


 入り口にはでかでかと。

【『思考しこう至高しこう)』文章変換ソフト 文書ロイド『文子ふみこver.1.01』】

 というポスターが近々ロールアウトするとの触れ込みでかかげられていたのですぐに分かった。


 入り口近くの壁に近づき聞き耳を立てる……までもなく、どこの軍隊やねん、と思わず突っ込みが入るほどの大声が聞こえてきた。



◆「有限会社 MUSTシステム 社訓しゃくん 読み上げー!」◆


「【我々MUSTシステム。

 以下、同社は神々かみがみ蹂躙じゅうりん、いや、『もてあそばれている』我々『人間ニンゲン』が持つ『物語ものがたり人生じんせい)』を人の手に取り戻さ『なければならない』との意思から同社の『サッカ』討伐の為の『人工サッカ創造そうぞうツール』を作成、適正のある人間を見つけるために大量に『配布はいふ』している。

 以下、このシステムは文書ロイド『文子ふみこ』に隠されている、適正のある人間の手に渡った時、適正者てきせいしゃを神の庇護ひごから『はずれた』サッカとして変貌へんぼうさせるだろう。

 我が社に入った諸君しょくん、いいか、この事業は『義務ぎむ』である。人が神に反逆はんぎゃくする事業じぎょうだ。

 安っぽい倫理観りんりかんなど持たなくていい。そもそも倫理を語るかみ自身がその倫理から逸脱しているのだ。

 笑ってしまうだろう。ちゃんちゃらおかしいってやつさ。さあ、諸君しょくん、これからその『おかしさ』を正すのだ!

 我々われわれが、たださなければならないのだ!】」


 おそらくMUSTシステム社長の演説だろう。


「この会社、いやもう組織か……やべえよ」


 俺は怖くなって、その場を逃げ出した。



 適当な隠れる場所も無く、資料室のような場所にいったん避難する。そしてそこには様々な書類が散乱していた。

 一つを手に取る。



◆『サッカ』とは?◆

▼【神々が人間の人生を物語の断片だんぺん材料ざいりょうにしてものがたりを作る為に生み出した『回収係』。それとは別にその回収した断片だんぺんをつなぎ合わせ、ものがたりとして仕上げる上位のサッカもいる。

 だがそれにしてもよほど神様かみさま退屈たいくつを紛らわしたいんだといえる。ここまでものがたりえているとは。このえの異常いじょうさはもはや喰欲しょくよくといってもいいのかもしれない】▲



 そんなレポートめいた物を閲覧えつらんしていると背後から声がかかる。


「サッカは人間の人生をい物にする怪物カイブツ達だよ」


 そこには、髪を腰まで垂らし、白衣を着た研究員風の男が入り口に立っていた。


 へらへらとしたうそくさい笑顔が不快感ふかいかんさそう。そして男は俺を指さして宣言せんげんする。


「ありがとう。人類じんるいのために『バケモノ』に成ってくれて」


きみ我々われわれのツールデバイスの作用で人工的じんこうてきに『サッカ』になったのさ。そして徐々に喰欲しょくよくに耐えられなくなっていく……人の心をい出すのも時間の問題かな。カハハ」


「てんめええーーーーーー!」


 研究員を殴りつける。接触した肌を通して研究員のこの計画に対する狂気きょうきみたいなのを感じた。でも不思議と不快ふかいじゃ無い。むしろ心地いい。いや、『美味オイしい』。


「あああああーーーーーー!」


 得た感覚を振り払うように資料室をメチャクチャにする。


文子フミコオーー! ……文子ふみこ


『いかが致しましたか?』


「本当にお前は何も知らなかったのか?」


『はい、まだ思い出せそうに有りません……もう少し手がかりが有れば』


 すがるような俺の叫びに文子はプログラムぜんとした探究心全開で答える。



「君が新たなる『覚醒者かくせいしゃ』か!」


 騒いでた為、見付かったらしい。恰幅かっぷくのいい中年男とそこに秘書のように付き従うインテリ女性。かたわらには三歳ほどの女の子を連れていた。虚ろな目をしてこちらを見ている。


「社長、お下がり下さい。まずはわたくしめが。この者の実力を試しましょう」


 MUSTシステムの社員の女が立ちふさがる。

 刹那せつな、女はその場に直立浮遊ちょくりつふゆうする。

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