第七条 新生リア充爆ぜろ委員会
第一項 お前の走りに惚れたんや。
背後から突然、陸上部部長の速水先輩が現れたのだけれど、委員長は、全く動じない。委員長は、何事もなかったかのように速水先輩に向けて「どうした?」と問いかけた。
「どうしたやと?! お前さん、何をしらばっくれとんねん! 勝負の結果は出たやないかい!」
「……勝負? ああ、そう言えば、そんなことやっていたな。」
あくまでもしらばっくれる委員長。
むしろ、しらばっくれる立場にあるのは、陸上部を辞めなきゃ行けなくなった速水先輩の方じゃないのかな。
……でも、速水先輩が陸上部を辞めなきゃ行けなくなったのは、間違いなく
それでも委員長に噛みつく速水先輩。律儀と言うか変なところ真面目なんだな、この人。
「そう言えばって、何を言うとんねん!」
「何を……って、そうだな。このリレーで勝負よりも大事なものを手に入れたのでな。」
かっけぇ!
委員長、かっけぇ!
もう一生付いていきます!
って、うっかり地雷を踏んでしまいそうになるくらいにはイケメン、いやイケジョなのであった。
それでも速水先輩は納得が行かない様子。
ホント頑固だなあ。
「ふんっ。偉そうなこと言いよってからに。」
「まあ良いではないか。これで、西園寺由宇は引き続き、リア充爆ぜろ委員会の副委員長として活躍してもらう。それだけだ。」
おお?
おお?
副委員長を続けるのは、何かアレな感情が湧き上がらなくもないけれど、委員長は速水先輩の陸上人生を踏みにじると言うことはしないようだ。
うんうん。
委員長も人の子なのだな。
速水先輩の事情を理解した上で大人の対応をしているようだ。
だがしかし、相変わらず納得がいかない風の速水先輩。
「それだけ。って、それだけでええんか?」
「……? 他に何かあるのか?」
「あるやろ! 陸上部が負けたら、わいがお前らの
地雷……っ!
自ら地雷を踏みに行くスタイルの速水先輩!
そもそも委員会の名前もわかっていないじゃないか!
この委員会が、どんなところかわかってるんですか?
カップルの間を走り抜ける様に命令する委員会なんですよ?!
カップルの男を蹴り飛ばしちゃう委員会なんですよ?!
突然SATが、襲撃してくる委員会なんですよ?!
どれだけ律儀なんですか。やめてください。いやマジで。速水先輩、自分の立場分かってるんですか?
絶対後で後悔するパターンの奴ですよ?
後悔先に立たず、覆水盆に返らず、後の祭りわっしょいわっしょい状態になるのは間違いないんですよ?
自分でも混乱して何を考えているのか訳が分からなくなってきた。
反面、いつでも冷静沈着な
「ああ、そう言えば、そんなことも言っていたかな。でも、それは、もうどうでも良いことだ。速水撫子、お前は、引き続き、全日本を代表するランナーとして活躍してくれたまえ。」
「おい、枯石。わいを舐めとんのか! 約束を破るなんてことは、ワイの信条に反するんや!」
「では、我が委員会に入会すると言うことか? だが今から入ると、一番下っ端からのスタートになるが、それでも良いのか?」
「望むところや! お茶汲みでも肩もみでも足もみでも何でもしたるわっ!」
待って?
まじ待って?
速水先輩、何か変な薬でも飲んだんですか?
ドーピングですか?
まあ、売り言葉に買い言葉なのだろうけれど。速水先輩って見るからに負けず嫌いっぽいもんな。
だがしかし、委員会に入ると言うことは速水先輩の陸上人生に終止符を打つと言うことではないのか。終止符と書いて
「ちょ、ちょっと待ってください! 速水先輩が、ウチの委員会に入るってことは、まさか陸上を辞めるってことですか?」
「そうやな。そう言うことやな。」
「ちょちょちょちょちょちょっ! 待って待って待って待って!」
速水先輩、何を宣っていらっしゃるのですか……!
それマスコミに取り上げられるくらいの大事だよ。文夏砲炸裂だよ。明日の新聞一面に載っちゃうくらいの出来事が目の前で起きちゃってるよ!
私の隣で呑気に笑う理亞ちゃん。
「うわー。由宇ちゃんの動揺っぷりハンパない。ウケるーっ! にゃははは。」
「いやいや、何を言っているの理亞ちゃん! 状況分かってる? 速水先輩が陸上辞めるってことは、陸上界の大ダメージだよ! 明日の新聞一面レベルの大事件だよっ!」
「えー。だって、由宇ちゃんが勝っちゃったんだから、仕方ないんじゃね?」
う゛……
それを言われるとツラい。ぐぅの音も出ない。グゥ。言っちゃってるけれども。
勝っちゃった。
ホントそれ地雷ワードだから!
「勝っちゃったとか、言い方!」
「だって、由宇ちゃんが大ダメージとか言うからー。」
「だってだって。速水先輩はスゴいんだよ? 何なら偉人だよ?」
いやマジ理亞ちゃん分かってない。
お気楽極楽の理亞ちゃんの様子を眺めて笑う速水先輩。
「かまへんかまへん。陸上は辞める。もう後には引けん、約束を破るなんて、女が廃る。」
「だって、だって全日本のエースが……」
「そんなん言ってくれるなや。ワイも陸上にこだわる必要はないんや。走るだけやったら、道でも河原でも、ドコでも走れるやんか。それに、大学行ってからでも陸上は出来る。」
「そ、それはそうですけど……」
もうすっかり割り切って晴れ晴れとした表情を見せる速水先輩。いやいや、私の頭は曇り空、むしろ土砂降りなんですけどっ!
私の気持ちを知ってか知らずか、速水さんは自分の将来より私のことを称えるのだった。
「むしろ、お前さんの走り見事やったで。」
「あ、ありがとうございます。」
「リレーな? 陸上部員にタイム計らせておいたんやけど、お前さん、400mの日本記録しれっと塗り替えとるで? 非公式やけれど、日本新記録や。」
「まままままままじでっ?! 由宇ちゃんすっげー!」
お、おう。
走ることに必死でタイムとか全然頭になかったや。
日本記録?
それが本当だとしても、あれはリア充爆ぜろ委員会のために走っていただけで、もう1回同じタイムを出せと言われても出来る気がしない。
「ワイは、お前の走りに惚れたんや。」
「そんなあ……たまたまですよ。」
「お前さんが、どんなに止めたところでワイは約束を守る。やから、陸上部は辞める、そして
ぴしり。
言い切る速水先輩。
だから、名前もうろ覚えな委員会に入ると言い切るのはやめた方が良いですって。それ悪徳商法に自ら飛び込んで行ってるのと変わらないですよ。
と言っても、もう私が止めたところで、きっと頑固な速水先輩が折れることは決して無いだろう。
まあ、実際の委員会の活動を体験してもらったら、怒って辞めるかもしれないしな。しばし様子を見てみるか。
理亞ちゃんが、私と速水先輩の様子を見てぽんっと手を叩く。
「さてさて、話がまとまったところで、病院に行きますか。」
「そうですわ! 零様、車が着きましたので、早く行きましょう!」
私たちは、生徒会長が呼んだ車にぞろぞろと乗り込み鬼龍院総合病院に向かうのでした。
って、車でかっ!
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