第五項 ぐんぐんぐんぐん。

 各人、配置位置に着く。

 4人体制のスウェーデンリレーの場合、400mのトラック4カ所にメンバーがバラバラに配置につくことになる。


 だから私、今1人ぼっちだ。

 何だかんだ言っても、騒がしい皆が居ないと心細い。


 だめだだめだ。

 しっかりしろっ私。


 委員長がしめてくれた長いハチマキ。

 ふくらはぎまで届きそう。


 そう考えてみると委員長、改めて背が高いんだなと実感する。まあ、それだけ私の身長が低いと言われたら、それまでなのだけれど。


「おや? 決勝は、お前さんがアンカーやねんな。」

「あ、速水先輩っ!」


「しかも、枯石が第1走者、陸上部も舐められたもんや。お前さん、陸上部の入部が決まったようなもんやな。」

「そんなの、まだわからないですよ!」


「何を言っとるんや? お前さんと枯石以外の走りは、とても見られたもんや無い。予選も運で勝ったようなもんやろ? やる前から結果は、決まってる。」

「う、うう……」


 私は速水先輩の言っていることに対して、何も言い返せなかった。


 特に理亞ちゃんはアテにできない。

 理亞ちゃんは第3走者、300m完走できるかさえ怪しいところだ。


「お前さんは陸上部に入るんや。それがお前さんのためにもなる。お前さんは、陸上をやるために生まれてきたようなもんやからな。」

「そんな、買いかぶりすぎですよう。」

「わいはこれでも人を見る目があるんやで?」

「そんなことないですよう……」


 私に向けてウィンクする速水先輩に思わずときめいてしまう。


 さっきの委員長と言い、私は何てちょろいのだと自分でも思う。だってもう、高校に入ってからの私、様々なタイプの美人に囲まれてもう。トキメキが止まらない。


 女が女に囲まれる。これもハーレムと言うのかな。気分的にはハーレム全開なのだけれど。


 このままでは百合に目覚めてしまいそうとさえ……


 いけないいけない!

 私には大事な彼氏がいるのだ。


 ……最近、SNSの返事返してないけれども。


 未読件数が超たまってきているのだけれども。


 次に会う予定は未定だけれども。


 これはマズいぞ?


 ――もしかして:別れ


 いやいやいやいやいや。

 今は忘れよう、今は。リレーに集中しなければっ!


「なにボーッとしとるんや。リア充爆ぜろ委員会なんてふざけた委員会、わいは認めないで! 必ず陸上部が勝ぁつ!」

「そ、そんなこと無いですよ。リア充爆ぜろ委員会だって負けないんですからっ!」

「ほう。おもろいこと言うな。吐いた唾飲まんとけや?」


 売り言葉に買い言葉。

 思わず口からでてしまったけれど、正直、自信は全くない。全国大会タイトルホルダーの速水先輩に勝てる自信なんて、ある訳がなかったのだ。


 けれど、私は陸上部に入るわけにはいかない。


 今更、陸上になんて戻れない。

 あの淀んだ視線に溺れることを考えたら、今の委員会に居た方が数万倍マシなのだ。


 マシマシなのだ。


 そして、いよいよリレー決勝がスタートする。

 委員長がスタートラインについてスタートの体勢を取る。


 ただ、そこにたたずんでいる。

 それだけなのに、他のランナーが霞んで見えてピンボケで、委員長がドラマの主人公のように、そこだけクローズアップして見えた。


 ――パァーン!


 号砲とともに各ランナー、一斉にスタート。


 ――早い!


 早くも委員長が、集団の先頭に立った。


 ぐんぐんぐんぐん。

 後ろのランナーとの差を離していく。


 その差5メートル、10メートル。

 大げさでは無く、一瞬にして離して行くのだった。


 ――リア充爆ぜろ委員会、早い!

 ――2位の陸上部との差がどんどん離れて行く!


 捲し立てる場内アナウンス。

 委員長、本当に足にケガしてるのか?


 絶対に嘘だ。


 だまされたーっ!


 私をアンカーにしたいが為に、委員長は、一芝居打って見せたのだ。


 ひでー。

 ひでーよ委員長。

 そこまでして、私のことを公衆の面前に晒したいのか。


 ほらほらみんな、見てよあの綺麗なフォーム。

 細くて高い身体に大幅なストライド。


 是非アニメ化をお願いしたいところだ。

 と言うか、リレーのスタートが、この章の5話目ってどう言うことなのよ。章じゃなくて条か。ホントもっと読者のことを考えなさいよね。


 え、私の独り言が多すぎるからですか。

 あはははは……ごめんなさい。私のことを見捨てないで読者様! 様々!


 ――リア充爆ぜろ委員会、輝いています!

 ――かっこいい!


 場内アナウンスが、予選に続いて私情を挟むくらいには輝いている。


 ――何故、彼女は第1走者なのかっ!

 ――100mだけしか走らないのか!

 ――不思議に思うくらいには早い!

 ――早すぎる!


 そうなんだよなー。

 私だって不思議に思う。

 なんで第1走者なんだろ。


 やっぱり私のことを陥れる為なんだろうなあ。ほーんと意地が悪いんだから。


 そして委員長は、あっと言う間に残り10mの所まで達したのだった。


 はええ。

 サバンナでシマウマを追うチーターの様だ。


 華麗と言う言葉は委員長のためにあるのだな。きっと。


 ここで委員長が貯めてくれたリードを、どう守って行くかが勝利への鍵になりそうだ。


 って。

 ……え?


 ――リア充爆ぜろ委員会、失速!


 驚き叫ぶ場内アナウンス。


 そうなのだ。

 突然、委員長が顔を歪めて、スローモーションの様にスピードをゆるめ。


 そして、ついに。


 ――リア充爆ぜろ委員会、止まった!


 なんと、委員長は、顔を歪めて右足を押さえ、立ち止まってしまったのだった。

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