第二項 バトルロイヤル

「さあ、はじまりますよ!」

「うむ。いよいよ入場だな。騎馬を組むぞ。」


 こう言うときだけ仕切ろうとする理亞ちゃん。

 理亞ちゃんのキッカケに合わせて、委員長が前に立ち、両手を後ろに真っすぐ差し出した。いわゆる騎馬先頭の大勢を取る。 


 溜息をつきながら、委員長の後ろに付く生徒会長。


「仕方ないですわね。零様、お手を。」

「百々花、そう膨れるな。風祭理亞、百々花の横に並べ。」

「はいはーい。」


 スキップしながら委員長の手を取る理亞ちゃん。

 これで騎馬の完成だ。


 委員長の手を握り、うっとりと頬を赤らめる生徒会長。


「はあ、零様の肩に手を置き、反対の手で零様の手を握る。百々花、幸せ……」

「あははっ! ちゃんとついてくるんだぞ。」

「はいっ! 一生ついていきます!!」


 ぎゅっと委員長の手を握りしめる委員長。そこだけ別世界になってしまっている。何か、そこだけバラが舞ってるように見える。


 そして委員長は、顔を私の方に向け膝を曲げて声を掛ける。


「さあ、西園寺由宇。騎馬に跨がるんだっ!」

「わかりましたよう。うう……イヤだなあ。よいしょ。」


 ここまで来たら後には引けない。

 私が騎馬に乗ると、三人が一斉に立ち上がる。


「うわっ! 高い!」


 今まで、騎馬戦をやったことはあっても、今まで騎手になったことは一度も無い。


 目線が高くなるって、少し怖いけれど気分が良いな。立ち上がった委員長が、前を向いたまま私に指示を出す。


「よし。乗ったな。じゃあ、私の方に身体を預けるのだ。」

「え、そうなんですか?」

「当たり前だ! 前傾姿勢で出陣だ!」


 そうなん?

 何か秘策でもあるのかな?


 私の騎手のイメージは、姿勢を正して凜とした格好で戦いに挑む印象だけれど。


「あ、はい。わかりました。……こうですか?」

「そうだ。良いぞ! うんうん。良い感じに柔らかいな。見た目以上に……あるな。」


 急に身体を反らす委員長。


 ちょい!

 ちょいちょいちょい!!


「うわっ! 頭を胸に擦り付けないでください!」

「あはははっ! ビキニ素材は薄いから、ダイレクトに胸の感触が伝わってきてたまらんな。」

「脳内おっさん化してますよ!」


 変態かっ!

 女子だから良いものの、男だったら、おまわりさん案件でしかない。


 って言うか、女の子が女の子の胸を揉むって言うのが良くあるシチュエーションだったりするけれど、暗黙の了解でOK的な感じになっているけれど、よくよく考えたら、人間全体で考えたらアウトじゃね?


 全然アウトじゃね?

 同性と言うことを盾にして、おっぱいを揉むって普通にセクハラじゃね?


 理亞ちゃんも当然のように私の胸を揉んでくることが頻繁にあるけれど、友達だし女子同士だからいいじゃん的に言われるけれど、それって普通にセクハラだからね。


 私が怒るよりも前に、生徒会長が声をあげた。


「零様! もう、おやめください! その小娘の立ち位置、本当は百々花の役目なのですからね!」

「あははははっ! すまんすまん。」


 すげー。

 嫉妬すげー。


 私としては、喜んで位置を変わりたい所なのだけれど。騎馬後方に立候補したい所なのだけれど。


 生徒会長の怒りの矛先が私の方に向いて来るんじゃないかとドキドキして、お尻のあたりがキューッとなる。


 そんな中、理亞ちゃん1人冷静だ。


「はーい。じゃあ、開始線に並びましょうねー。」

「うわっ! また理亞ちゃんがマトモなこと言ってる!」

「何言ってるのさ-。僕はいつもまともだよっ!」

「言い切ったっ! 清々しい程に言い切った!」


 本当に理亞ちゃんどうしたんだろ?


 まあ、仕切りたいんだな。

 きっと。


 委員長も高らかに、そして爽やかに笑う。


「あははっ! まあ良いではないか。さあ、行くぞ。」

「は、はい!」


 委員長を先頭に騎馬がリズミカルに進んでいく。


 うん、みんなの息はピッタリだ。

 運動音痴と思われる理亞ちゃんも何とかついて行っている。


 そして、所定の位置に騎馬が着いた。


「何か、騎馬が円状に並んでますけど、なんですかこれ。」


 各部の騎馬がぐるりと円を作って並んでいる。


 各馬、配置につきました!


 きっと競馬中継だったらアナウンサーが叫んでいるところだろう。


 おい、場内アナウンス。

 仕事しろよ。


 場内アナウンスの代わりに委員長が、各部の騎馬を見回しながら説明してくれた。


「それはバトルロイヤル対戦。部活対抗だから、トーナメント、総当たりなどで、一騎打ちにすると時間がかかるし効率が悪いのだ。」


 ふーん……

 なるほどね。


 こうして周りを見渡してみると圧迫感が怖いな。


 ガタイの良い運動部の皆さんが、一斉にこっちを見ているような気がしてならない。


「あ、あの委員長? 何か私たち、注目されてません?」

「ああ、去年、百々花と2人で次々と打ち負かしてきた連中だからな。徹底的にマークされているのかもしれんな。」

「ええっ! やっぱり騎手、生徒会長に変わって貰った方が良くないですか?」

「大丈夫だ。西園寺由宇、私に付いてくれば間違いない。」


 自信満々な委員長。

 その根拠が私にはわからない。


 怖い。

 視線が痛い。


 私は弱々ですよ-。

 皆さんがマークするような強敵じゃないですよー。


 はーい。

 みなさーん、もっと他にマークすべき敵がいるはずですよー。


 と、アナウンスしたい気分になるほどに、ビンビンと殺気が伝わってくる。


 そんな中、生徒会長が必要以上に息巻いている。


「零様に向かってくる敵は、私が全てぶっ飛ばしてやりますわっ!」

「ふふふ、敵をぶっ飛ばす役目は西園寺由宇だぞ。百々花は私に付いてくれば良い。」

「はいっ! 一生、零様に付いていきますっ!」


 もはやイケメンでしか無い委員長に、生徒会長の目がハートマークになっている。


 生徒会長も普段は凜々しくて、女子ファンが少なからず居るはずなのだけれど、委員長の前では、その姿は微塵も感じられない。ごく普通の愛情表現つよつよな女子である。


 唯一冷静沈着な理亞ちゃんが委員長に尋ねた。


「バトルロイヤルってことは、勝者は1騎と言うことですか。」

「その通りだ。」


 勝者は1騎?

 そうなの?


「え。それってかなり不利じゃ無いですか? 他の部活、何騎も騎馬がいるじゃないですか! うちの委員会だけ1騎とか狙い撃ちされちゃいますよ!」

「いや、西園寺由宇。お前なら大丈夫だ。信頼してるぞ。」


 スパッと言い切る委員長。


 何故?

 買いかぶりすぎでしょ。


 買いかぶりどころか、むしろ私は貝をかぶりたいくらいなのだ。


 って、全然うまくない。


「いやいやいや、やめてください! 無理ですって! みんなめっちゃこっち睨んでますよ? 怖い……!」


 怯える私をサラっと無視する委員長は話を続けた。


「特にマークしなければならんのが、ラクビー部だ。」


 え、ラグビー部?

 聞いたこと無いな。


「え、ウチの学校ラグビー部なんてあるんですか?」

「ああ、全国大会でも優勝候補の筆頭と言われている。ほら、向こうに見える騎馬がラグビー部だ。」


 え、向こうに見えるって、存在感つよつよのあの騎馬ですか?


 さすがの理亞ちゃんも驚いている。


「うわっ! カラダでかっ! 筋肉量がエグいっすね。胸と言うか胸板すげえっ!」

「うわあ! あんな化け物と戦いたくないですよー。」


 今にもぶん殴られそうだ。

 あからさまに敵対心剥き出しでこっち見てるわー。


 いや、大丈夫ですよ。

 小物ですから、そんなに見なくても楽勝ですよ。


 そんな私を尻目に委員長は鼻息荒く言うのである。


「まあ、勝ち抜くには、いずれは戦わなければならん敵だな。」

「いやいやいや、無理ですって! あんなのモンスターですよ。ラスボスですよ。普通の女子が勝てる訳ないじゃないですかあ!」


 悲鳴に似た声をあげる私。

 むしろ、悲鳴だった。


 そんな私を見て檄を飛ばす生徒会長。


「この小娘! 負けたら承知しませんわよ!」

「ひええええ、生徒会長までぇ。やめてくださいよ。」


 私に味方はいないのか。


 それでも無情に戦いは始まるのだった。


「さあ、はじまるよーん。よーい。ぱあん! っと。」


 他人事な理亞ちゃんは、またも私たちを仕切るのだった。

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