第三項 ポロリ……ですね。

 ――騎馬戦スタートです。

 ――各馬一斉にスタートしました。


 完っ全に競馬中継だ。

 場内アナウンス、絶対楽しんでるよね。


 そして委員長が馬のように息を巻く。


「さあて、行くぞ!」


 えげつないスタードダッシュを見せる委員長。それはもう暴れ馬のようだ。


「うわわわわ! 早い! 早いですって! 委員長、怖い!」

「まだまだ、これからだっ! それにしてもビキニの大群が押し寄せてくる光景……たまらんなあ。」

「零様……!」


 そんな委員長に何とか付いて行きながら、ヤキモチを妬く生徒会長。


 器用な人だな。


「すまんすまん、思わず本音が出てしまった。」

「ですから、私が脱ぎますから!」

「何、痴話ゲンカしてるんですか! 敵が来ますよ!」

「おっと。」


 事も無げに敵をサクッと避ける委員長。

 いや、乗っている私も委員長の動きが見えないんですけど。


 もう、振り落とされそうでヤバい。


「はやっ! もう瞬間移動並みに早いっ! もう少しゆっくり動いてくださいよう!」

「西園寺由宇、しっかりと私に捕まっていないと飛ばされるぞ。」

「ひええっ! はひいぃ……!」

「そうだ。うん、そう。いやあ、胸の膨らみの感触はたまらんな。」


 ちょいちょい。

 それセクハラですからやめてくださいよ。


 なんて言葉を発する余裕なんて、私には全くなかった。


 絶句。


 だって、ビュンビュンだよ?

 委員長にしがみつかなきゃ、間違いなく振り落とされる。だがしかし、しがみつけばつくほどに、委員長が恍惚するシステムになっているようだ。


 つうか。これ絶対、私が委員長にしがみ付くことを計算して、必要以上に俊敏に動いているよね?


 だって、周りに騎馬が居ないのに右へ左へ、むしろ上に下に、騎馬が動いてるんだよ?


 例えれば、ロデオ、暴れ馬の如く騎馬が動き回っているのだ。本当に今にも振り落とされそうだ。


 イヤだけれど仕方が無い。

 全私が泣いている。


 そんな中、理亞ちゃんが、ある騎馬に向かって指をさした。


「あ、委員長あそこ!」

「なんだ? ……ほう。」


 ニヤリとする委員長。


 ――きゃあああっ!!


 うわあっ!

 ビキニ(上)を取られた騎手が、悲鳴をあげながら必死に胸を隠している。


「ポロリ……ですね。」

「うむ。ポロリ……だ。あれは察するにC70、大きすぎず小さすぎず程よい大きさだ。素晴らしい。」

「C70……! なるほど、流石は委員長! あんなに離れた女子のカップサイズまでわかるんですね!」

「ふふふ……まあな。」


 ポロリを見て喜ぶ理亞ちゃんと委員長。委員長に関しては、ブラサイズまで想像している。本当に悪趣味でしか無い。


「何見てるんですか! 真面目にやってください!」

「ああ、すまんすまん。西園寺由宇、しっかり敵のビキニを狙うのだぞ。」

「は、はい! って、違いますよ! それもうルール変わっちゃってますよ! 取るのはビキニじゃ無くてハチマキですよねっ?!」


「まあ、ポロリした時点で、その騎馬は負けたも同然だ。」

「それはそうですけどー。」


 欲望に満ちあふれる委員長。

 私にそんな趣味は無い。


 ただ、手段を選ぶ余裕が無いのも確かだ。


「おっ! また来ましたよ! 由宇ちゃん、後ろ!」


 こっちに向かってくる騎馬を見つけて楽しそうに、そして嬉しそうに報告する理亞ちゃん。


 けれど、楽しむ余裕なんて私には無いのだ。皆無なのだ。


「うわあっ!!」

「ほら、確実にビキニを狙われているでは無いか。まあ、そう言うことだ。あっはっはー。」

「笑っている場合じゃ無いですよ!」


 そう。

 敵は後ろから、私の背中、ビキニを紐で結んでいる部分をピンポイントで狙ってくる。


 なんでよ!

 間違ってるよ!

 狙うところ間違ってるよ!!!


 委員長は騎馬を180度回転した。

 一瞬、敵はひるんだけれど、今度は私の顔に向かって拳を繰り出した。


 それは、ハチマキを取ると言うよりは、私に殴りかかろうとするような形になっていた。


 明らかに反則である。

 委員長は、瞬時に騎馬を右に傾けた。


 心の準備が出来ていない私は、騎馬から落ちそうになる。


「きゃあっ! 何するんですかあ!」

「西園寺由宇、今だ。右手を突き出せ。」

「は、はひいいっ!」


 こんな状況で無茶振りする委員長。

 でも素直な良い子ちゃんの私は、体勢を崩しながらも、指示通り、出来る限り右手を相手に向かって突き出した。


 ――シュッ!


「おお! ぶーぶー言いながらも、相手のハチマキ取ったー! 由宇ちゃん、ごいすーっ!」

「……へ? あ、ホントだ。」


 理亞ちゃんの言うとおり、私の右手には、ギュッとハチマキが握られていたのだった。


 これが、いわゆるビギナーズラックと言うことなのかな。騎手のビギナー。


 委員長が満足気に微笑む。


「うむ。やるでは無いか、西園寺由宇。」

「たまたまです。って今、委員長、避けられたのに避けなかったですよね!」

「どの程度の腕前か見させて貰おうと思ってな。」

「やめてください!」


 そうなのよ。

 別に相手に立ち向かう必要なんて全然無いんだって。


 この騎馬戦は、勝ち残り戦だよね。

 ハチマキ取った数なんて勝負に影響しないのだ。


 だったら、平和に逃げまくって戦う回数を最小限に抑えて欲しい。


 私は平和主義なのだ。

 出来るだけ戦いたくないのだ。


 けれど、私の言い分なんて全く耳に入っていない委員長。心から楽しんでいるようだ。


「まあ、この調子でよろしくたのむ。」

「はああ、わかりましたよ。」


 もう諦めの境地で溜息混じりに頷く私。

 言っても無駄だと思ったら、諦めちゃうのが私の悪い癖だと自分でも思う。


 そして、休む間もなく生徒会長が叫ぶ。


「次、来ましたわ! 小娘、気合い入れなさい!」

「本当だ! うわああっ!」


 ひえええっ!

 目の前には巨大な壁があった。


 私と同じように理亞ちゃんも驚く。


「うわっ! あれは確かバスケ部の人だ。でっか!」

「うわあ、圧迫感がハンパないよう!」


 あわあわと慌てる私に委員長は冷静にアドバイスする。


「まあ落ち着け。こんなことでひるんでいたらラグビー部には勝てんぞ。」


 アドバイスじゃ無かった。

 むしろ発破をかけられているようだ。


 いくら発破をかけられたところで、根っからビビりの私には通用しないのだ。


「そんなこと言われても、バスケのディフェンス並みに手数がスゴくて避けきれないですう!」


 弱音山盛りの私に、生徒会長の檄が飛ぶ。


「小娘、しっかりなさい!」

「そんなこと言われてもお……」


 もじもじする弱々星人の私。

 あんなデカいの無理ですって。体格差おかしい。もうパースがおかしいもの。観客の視点からすると、私たちはバスケ部からスゴく遠くにいるように見えているに違いない。


 でも実際には違うのだ。

 目の前だ。至近距離だ。近すぎる、やばい。助けて。


 そんな私の気を知ってか知らずか、バスケ部の騎手は私に向けて、何やら叫び声をあげながら右手を突き出してきた。


 瞬間、委員長が私に向かって叫んだ。


「ほら今だっ! 相手の脇があいたぞ! 手を伸ばせ!」


 そんなこと言われても、どう考えても無駄である。


「そんなあ! 相手のハチマキまで手が届かないですよお。」

「大丈夫だ! やるだけやってみろ!」


 委員長は自信満々に言うのだった。

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