第八項 結果発表!

「写真判定! ドキドキしますね。」

「ここから見た感じだと、本当に同時でゴールしたように見えたけど、どうだろう……」


 ワクワクと結果を待つ理亞ちゃんと私。

 本当にタッチの差、どちらが勝ったと言われても文句は言えない状況になっている。


 本部のテント内のモニターに、大勢の人が集まっている。写真判定でも中々判別が出来ない際どい結果のようだ。


「零様が負けるわけございませんわ!」

「ふふふ、まあ、どうなるか楽しみだな。」


 生徒会長は委員長の勝利を確信しているようだった。当の委員長も、勝負の行く末がわからない風の口ぶりだけれど、その口調は生徒会長共々、勝利を確信するものだった。


 これで負けたら生徒会長、どうなるんだろう。

 本部席へ殴り込みに行きそうだ。


 でも、委員長の足の速さったら、半端なかったな。もう、ずっと見ていたかった。見蕩みとれていた。


「それにしても委員長、足早かったですね。フォームも綺麗だったし、昔、陸上とかやっていたのですか?」

「いや、陸上の経験は無い。」

「すごい! あの走りだったら、絶対陸上部と良い勝負ですよ!」


「何をおっしゃいますの! 陸上部なんて目では無いですわ!」

「そんなことは無いさ。」


 怒る生徒会長と謙遜する委員長。


 ちなみにウチの陸上部は、全国大会レベルだ。

 けれど、生徒会長の言うとおり委員長の足は陸上部に引けを取らないだろう。


 少なくとも私よりは早そうだ。


 そんな中、ずっと本部席を見ていた理亞ちゃんが声をあげた。


「あ、結果出そうですよ?」

「うむ。」


 ――対抗リレー予選の結果を発表します。


 ――5位、書道部。

 ――4位、美術部。

 ――3位、軽音部。


 ――です。


 観客席から歓喜の声、溜息が入り混じる。

 場内アナウンスは、3位の軽音部のコールをしたところで一呼吸置いた。


「うわー。場内アナウンス、勿体ぶって、なんだよー! 早くしろよー!」

「まあ、落ち着け。」

「だって、結果知ってるくせにずるいですよ!」


 そわそわイライラする理亞ちゃんをなだめる委員長。


 場内アナウンスは結果発表の続きを放送する。


 ――そして、第2位っ!

 ――ダラララララッ……!


 そんな理亞ちゃんの気持ちを知ってか知らずか、観客を煽る場内アナウンス。


 ちなみに「ダララララ……」は口で言っているドラムロールである。流石に音源は用意していなかったらしい。安っぽいこと、この上ない。


 ――そして第2位はー?


 ――じゃん!


 ――…………


 ――吹奏楽部!


 ――うおおおおおっ!


 場内アナウンスから叫ばれた吹奏楽部のコールに湧き上がるオーディエンス。そして、頭を抱える吹奏楽部の面々。


「と、言うことはー?」


 興奮する理亞ちゃんは、ワクワクして場内アナウンスからのコールを待つ。


 ――予選第一位、リア充爆ぜろ委員会!


 ――リア充爆ぜろ委員会、決勝進出です!


「うわあああっ!」

「きゃあああ!」

「きゃああ! 零さまあああああっ!」


 抱きつき喜ぶ私と理亞ちゃん。

 生徒会長も、委員長に飛びついた。


「よしよし。百々花、頑張ってくれてありがとうな。」

「いえ、全て零様のお陰ですわ!」


 いや、委員長、マジすごいわ。

 持ってる人と言うのは、こう言う人のことを言うのだろう。


「うわー! 委員会で勝ち取った優勝ですね!」


 しゃあしゃあと抜かす理亞ちゃん。

 美味しいところを持って行かせたら日本一だな。


「いやいや、理亞ちゃん歩いてたじゃない。」

「え、そんなことないよ。僕、頑張ったよ。」

「いやいやいや、全然頑張ってないよ!」


 意地でも理亞ちゃんのことを認めたくない頑固な私。


 だって、本当に歩いてたんだよ?

 エア聖火ランナーだよ?


 むしろ足引っ張りまくりだよ。


 怒る私を窘める委員長。


「まあまあ、結果、1位になったんだ。よかったじゃないか。」

「そうですけどー。」

「次は決勝だ。気合い入れて行くぞ。」

「よっしゃあ! 頑張るぜ!」


 おいこら。

 理亞ちゃん、説得力が皆無だよ。


 決勝も同じだったら、今度は絶対に勝てない。


「理亞ちゃん、本当に頑張ってね。」

「あははは……」


 さすがの理亞ちゃんも苦笑い。


「そうですわよ、子ネズミのくせに走らないとか、今度やったら承知しませんわ!」

「うわー。生徒会長から言われたら冗談になってないよー。SATに銃殺されそう。」

「それな。」


 生徒会長が右手を挙げれば、SATが突入してくるシステム。もう恐怖でしか無い。生徒会長には逆らえない。


「さて、リレー決勝の前に騎馬戦だ。」


 委員長が淡々と話を切り替えた。

 そう言えば、この人が感情的になったところを見たことが無いな。どんなときにでも冷静沈着と言うか、動じないというか。


 これが大物の器と言うヤツだろうか。


 まあ確かに、リレーは運動会の花形。最後の種目だよね。


 騎馬戦か、まあ、私は騎馬の後ろで、のほほんと委員長について回ろう。きっと騎手は生徒会長だし、うん、気が楽だ。


「騎馬戦かあ。今回は4人居るから普通に騎馬組めますね。」

「そうだな。流石に2人での騎馬戦は辛かったからな。」


 確かにっ!

 いくら生徒会長が細くて軽いとは言え、おんぶして騎馬戦とか確かに辛いよね。


 理亞ちゃんは、しれっと話を進める。


「で、作戦はどんな感じで?」

「うむ。まず、各員の配置だが、私が騎馬の先頭、で、後ろが百々花、風祭理亞、そして、騎手が西園寺由宇で行く。」


 ほんほん。なるほどなるほど。

 委員長が騎馬の先頭か、順当ですね。


 騎手……ん?


 騎手、私?


「えええええええーっ!! 私が騎手とか無理です! 本当に無理! 騎手は生徒会長じゃないんですか?!」


 流石の生徒会長も激怒する。


「そうですわ! 私が何故に、何故に、この子ネズミから足蹴にされなければならないのですの? 私は零様の背中に寄り添いたいですわ!」


 でしょでしょ?

 そりゃあ、怒りますよ。


 だって、リレーの時、前走者の私の手を除菌させた人ですよ?


 それなのに私を担ぐとか絶対無理でしょ。

 また、SATメイドが出てきちゃいますって。今度は射殺されちゃいますって。


 こんな時でも委員長は冷静だ。


「まあ待て。百々花。百々花が後ろで手を繋いで見守ってくれたら、私は心強いのだが、な。ダメか?」

「え、零様と手を……?」


「そうだ。そして騎馬戦で勝ったら、百々花と私、2人きりで……あとはわかるだろう?」

「きゃあ、零様のえっち! うふふっ、そこまで言われるなら、私、命を懸けて零様の手を握りますわ。死んでも離しません!」


「ふふっ。頼むぞ、百々花。」

「お任せくださいな!」


 生徒会長、ちょろかった。

 委員長は、生徒会長の操縦法法を熟知しているらしい。


 一瞬にして、生徒会長の固い意志を崩してしまった。


 だがしかし、私の固い意志はくずれていない。


「あの、私の意志とか関係ないのですかね。」

「しょうがないよ。委員長命令だからね! 由宇ちゃんファイトっ!」

「またー。理亞ちゃん、他人事だと思って。」


「そんなことないおっ! 理亞ちゃんとは永遠の親友だお!」

「だお、とか。絶対気持ち入ってないでしょ。」

「あはははっ!」


 面白ければ何でも良い勢理亞ちゃん。

 本当に煽るのやめて欲しい。


「で、だ。西園寺由宇。」


 委員長は、私の言葉をスルーして、話を進める。


「え、急になんですか?」

「騎馬戦の前に、これをつけろ。」


 はあ、もう私に決定権はないのですね。

 私の固い意志なんて、豆腐みたいなものですよね。見た目だけで、実際は脆くて儚いものですよね。簡単に崩れ去りましたよもう。


「なんですかこれ。委員長と同じ赤いハチマキですか? 気合い入れろ! ってことですかね。はいはい。やれるだけはやらせて頂きますよ。」


「いや、ハチマキでは無いな。」

「え? あ、ホントだ。紐っぽいのに、三角の布がついて……ま、まさか。」


「うむ。ビキニだ。」


 委員長は事も無げに、そして無感情に言い切った。

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