第四項 グッジョブ生徒会長
背後は委員長に異を唱える声。
そう、この人は。
委員長は、その声の主に優しく声を掛ける。
「うん? どうした百々花?」
なんて、勿体ぶったところでまあ、言わずと知れた委員長の恋人、
生徒会長は、両手の拳を握り激高する。
「零様と小ネズミが繋がるなんてこと、私、許せませんわっ!」
「繋がるって、そんな大げさな……。」
「お黙りなさい! この泥棒猫!」
「うわっ。ネズミから猫になった。」
ネズミから猫に格上げだ。
言うてる場合では無い。全く嬉しくない。
繋がるって。
そんな大層なことでは無いのだ。バトンを手渡すだけだ。もっと言えば、中途半端に長い棒を渡すだけだ。
まあ、その認識は委員長も同じだったようで、生徒会長のことをヨシヨシと頭を撫でて
「百々花、そんな気にすることでは無いさ。私が好きなのは百々花だけだよ。」
「零様嬉しい! でも私、零様と他の女が繋がっているところを見るなんて、有り得ませんわ。」
腕組みをして考える委員長。
「うーん。そうか。百々花の話だと私は、第1走者かアンカーしか出来ないことになるな。」
腕を組んで困る委員長とは対称的に、理解してくれたのかと生徒会長の顔が
「そう言うことになりますわね。それに私は、颯爽とゴールテープを切っている零様をみたいですわ。」
「そうか。わかった。だが、百々花、第3走者、つまり距離が300mになるが走れるのか?」
「お任せください! 私、零様のためなら、死んでも走り切りますわっ!」
いや、死んじゃダメでしょ。運動会どころではなくなってしまう。お付きのSATから一斉攻撃を受けそうだ。
まあ、私は、200m、300mどっちでも良いけどね。アンカーじゃなければ良い。
委員長は仕切りなおす。
「えー。改めてリレーオーダーだが、第1走者、風祭理亞、第2走者、西園寺由宇、第3走者、鬼龍院百々花、そして第4走者、枯石零で行く。」
「お任せください。零様大好きっ!」
「はははっ、こんなこと造作もないことさ。」
おお、委員長が折れた。
と、言うわけで私の走る距離が100m縮んだ。ラッキー。第2走者とか一番目立たないポジションじゃないか。私にピッタリだ。
グッジョブ生徒会長。
それに対して、元々100mな理亞ちゃんは、他人事のように委員長と生徒会長を交互に眺める。
「うわー。なんか委員長と生徒会長の間だけ別世界になってるよ。花びらが舞ってるように見える。百合百合ワールドだ。」
「あはは……でも私的には第2走者で、あまり目立たないから良かった。ホッとしたよー。」
理亞ちゃんは制服のポケットから、紙を取り出してリレーの出場チームを読み上げた。
「えっとー。予選で当たる出場チームは……っと。美術部、軽音部、書道部、吹奏楽部……そしてリア充爆ぜろ委員会っと。」
「文化部が固まってるね。」
予選は走力に差が出ないように配慮されているのだろうか。
それにしても、このテンプレート的な文化部のラインナップ+リア充爆ぜろ委員会。ウチの委員会だけ浮いて見えていることは否めない。
委員長は、そんなことなんて造作も無いかのように淡々と説明する。
「うむ。予選は文化部同士がぶつかるように組まれている。上位1チームが決勝進出だ。」
「まあ、余裕ですわね。」
受ける生徒会長。
この人の自信はどこから出てくるのだろうか?
まさかのSAT登場?!
まさかね。
……やめてよね。
子供の争いに親が出てくるみたいなの。
ホントやめてよね。
これフリじゃないから。
ガチのヤツだから。
って、決勝進出できるの1チームだけ?!
「えっ! 決勝進出が1チームだけってヤバくないですか? 特に吹奏楽部とか相当鍛えてそうですよ。この前グラウンドで走ってたしっ!」
「そうだな。中々の強敵だ。油断できんな。」
平然と答える生徒会長。
「まあ、何とかなるよ。」
と、お気楽極楽な理亞ちゃん。
「私と零様が居たら1位なんて軽いものですわっ!」
「あはははっ。そうだな。」
ああ、もうどいつもこいつも呑気なんだから。
――リレー予選の出場チームは配置についてください。
場内アナウンスが流れる。
素早く反応する理亞ちゃん。
こう言う賑やかしには敏感である。
「あ、僕たち、出番みたいですよ!」
「うむ。では行くか。」
学校のグラウンドの周囲は400m。
だから、スウェーデンリレーのルールだと、100m走る理亞ちゃんは4分の1週、200mの私が半周、300mの生徒会長が4分の3週、そして400m走る委員長はグラウンド1週走ることになる。
400mとか、まあまあエグい。
だって、400mって短距離走の部類に分けられるのですよ。
究極の無酸素運動で、酸素を取り入れずに走る限界が400m。まさに過酷な競技なのです。
中学時代、私は陸上部で100m走を担当していた。だから、200mでもキツいくらいなのだ。
よかった。アンカーだけでもプレッシャーで押しつぶされそうなのに、400m走なんて死んでしまう。
と、言っている間に、スタートの準備が整ったようだ。理亞ちゃんは既にスタートラインについている。
……って、理亞ちゃんてばヘラヘラ笑ってるよ。
「由宇ちゃーん、いっくよーん。」
こっちに向かって、ブンブン手を振っている。緊張感は全くない。早くスタートの姿勢取りなさいよ。絶対、責任感とか無いよね。
――よーい。
スターターの号令で、各自、前傾になりスタート体勢に入る。
そして。
――バァーン!
ピストルの号砲が鳴り響き、各チームが一斉にスタートしたのだった。
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