第五項 リレー第一予選スタート!
……さてさて、我がチームの特攻隊長、第1走者、理亞ちゃんはどうかな。がんばっとるかね。
って、え?
……え?
私は理亞ちゃんを二度見する。
うそ。
うそだろ?
おっそ!
おーーーっっっそ!
破滅的に遅い。
壊滅的に遅い。
絶望的に遅い。
ダントツのビリだ。
ビリッケツだ。
もう、どんどんばんばん集団に抜かされている。
いや、違う。
抜かされてなかった。
最初から抜かされる間も無くスタートから大幅に出遅れて、その差を離されているのだから。
「やあ、どーもどーも。」
呑気に観客に手を振りながら走る理亞ちゃん。
いや、むしろ走ってない。
走っている姿勢を見せているだけだ。
歩くスピードと全く変わらない。
むしろ歩いたほうが早い。
お前は聖火ランナーかっ!
自治体から選ばれたのかっ!
ドドドドドッ……!
他のチームが必死に走っている中、理亞ちゃんは、もう20mくらいは余裕で離されていた。
離されていたいた。
過去形だ。
最終的に、何m離されるか考えたくないくらいの勢いだ。
いや、ごめんなさい。
勢い。
無かった。
理亞ちゃんに勢いなんてなかった。
どないしてくれんねん。
おいおい。
私と一緒に走る他部活の第2走者が、係から呼ばれてスタートラインで準備を始めだしましたよ?
私だけトラック内に、ぽつんと立っている。
ぽっつーん。
なんだこの孤独感は。
早く、早く私を迎えに来て。
そんな悲劇のヒロインの気持ちがよく分かる。
「あ、佐藤さんだ! こんにちはー!」
観客の佐藤さんに、両手を手を振り頭を下げて、それはもう丁寧に挨拶をする理亞ちゃん。
誰だよ?
佐藤さん誰だよ!
新キャラか?
日本で良くある名字第1位の佐藤さんだけれども、ナンバーワンだけれども、どう考えても挨拶するシチュエーションじゃ無いだろう。
ほら、佐藤さんもリアクションに困っているじゃないか。遠慮がちに腰のところで小さく手を振る佐藤さん。
ウチの理亞ちゃんが迷惑掛けてごめんなさい。
つうか理亞ちゃん!
立ち止まってるんじゃないよ!
「理亞ちゃん走ってーっ!」
我慢できずに私は思わず理亞ちゃんに声を掛ける。
私だって腐っても陸上部の端くれだったから、何回かリレーの選手になったこともある。
だけれど、前走者に向かって「頑張れー!」と声を掛けることはあっても、「走ってー!」と叫んだことは未だかつて無い。
初めてである。
こんな初めていらなかった。
そして、各チーム、次々と第1走者から第2走者にバトンが渡されて行く。
――リア充爆ぜろ委員会、頑張ってください。
放送委員会の場内アナウンスから声を掛けられる理亞ちゃん。
「えへへへ。」
頭を掻きながら照れる理亞ちゃん。
誉められてないよ?
それ、誉められてないからね?
明らかに反応間違ってるよ?
理亞ちゃん、それは悪目立ちと言うヤツである。決して誉められた目立ち方ではない。
やっとのことで、バトンの受け渡しエリア、テイク・オーバー・ゾーンまでやってきた。
「由宇ちゃん、あとよろー。」
「何やってるの、まったくもう!」
「えへへ、見せ場作っといた。」
「こんな見せ場いらないってば!」
私は、理亞ちゃんからバトンを奪い取り前を向く。
うわー。
結構離されちゃってるよー。
5チーム中、ダントツの5位。つまり最下位。
こんなダントツ嬉しくない。
順位は、吹奏楽部、美術部、軽音部、書道部の順。4位の書道部とは20m差と言うところだろうか。
もうやるしか無い。
走るだけ走って、もう後はどうなっても知らん。
私は、腕を振り、大股で走り始める。
ローファーだから、走りにくいな。
まったく、ローファーで全力疾走とか滑って転んで大けがしたらどうするんだ。
パンツまる見えになっちゃうじゃないか。
と、ブーブー言いつつ、グングンとスピードが加速されて、書道部との差が縮まっていくのが自分でも分かる。
ブランクはあるけれど、文化部よりは、元陸上部の私の方が有利だよね。
「何してるの! ビリじゃないの! 早く走ってきなさい!」
生徒会長の檄が飛ぶ。
だって、私のせいじゃないもん!
エア聖火ランナーの理亞ちゃんのせいだもん!
――リア充爆ぜろ委員会、早い!
――4位の書道部を捉えました!
半分くらい、残り後100mくらいのところで書道部の後ろについた。
――抜いたっ!
興奮する場内アナウンスが聞こえる。
うん、何とか書道部を抜くことができたのだ。
これで4位。
3位の軽音部、ギリ行けるかな。
私は早めにスパートをかける。
体力を温存している余裕はなさそうだ。
そして、軽音部の背中が見えてきた。
うん。
思ったより、走れてるな。
朝の登校時、理亞ちゃんに毎朝走らされているお陰かな。
だって私の方が、圧倒的に理亞ちゃんより早く待ち合わせ場所まで来ているのに、理亞ちゃんてば遅刻ギリギリがデフォルトなんだもんなー。
ひどいときは菓子パン
これって、毎朝、トレーニングしているのと変わらない。ちなみに理亞ちゃんを引っ張っているので、筋トレも兼ねられている。
だから、ローファーで走るのは慣れっこだ。だけれども、それがこのリレーで生かさせていると思うと如何ともしがたい気持ちにもなる。
「由宇ちゃーん、がんばーっ!」
理亞ちゃんの声が遠くから聞こえる。
理亞ちゃんが、もっと真面目に走れば、こんなことにはならなかったのに!
――リア充爆ぜろ委員会
――軽音部も抜いて3位になりました!
――2位の美術部も目前です!
声を枯らせて場内アナウンス。
なんか、私すごい注目されてない?
あまり目立ちたくないんだよなあ。
高校で陸上部に入らなかったのも、そのせいでもあるし……
――リア充爆ぜろ委員会
――美術部も抜きました!
――2位です!
――おおおーっ!
観客席も大いに沸いている。
だがしかし2位にはなったが、その前1位の吹奏楽部は、既に第3走者にバトンを渡す寸前だった。
はあ……流石に、吹奏楽部は抜けなかったか。
まあ、ビリから2位まで上げたのだから、及第点と言うことにしておこう。
やっとのことでテイクオーバーゾーンに入り生徒会長にバトンを手渡す。
……手渡す?
あれ?
――スカッ
生徒会長は私のバトンを華麗に避けた。受け取らない。受け取ってくれない。
私のことを闘牛士の如く華麗に避ける生徒会長。私は勢い余って、生徒会長を追い越してしまった。
「生徒会長、バトンを……」
振り返り、生徒会長にバトンを差し出すが、依然として受け取る素振りさえ見せてくれない。
「私が子ネズミの触れた物を触るわけにはいきませんわ。」
「……え?」
――ドドドドドド……
折角抜いてきた美術部、軽音部、書道部が次々と私のことを抜いていく。
ちょっとちょっと、これ、どう言うことですか?
私は生徒会長の意味不明な行動に混乱するばかりだった。
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