第三項 「「ブラジャー」」
委員長の宣言通りだった。
私は全ての個人競技に出場させられて、片や理亞ちゃんは応援席でブルーシートの上、寝転がりながら呑気にポテチを食べて観戦すると言う、私としては
それに制服で徒競走とか、パンツが見えないか気になって集中して走れなかったよ。
競技が終わった私を理亞ちゃんが手を叩いて迎える。
「さっすが由宇ちゃん。文句言いながらも徒競走ダントツ1位だったじゃん。おめれとー。もぐもぐ。」
「ポテチ食べながら言われても嬉しくないよー。しかも言えてないしっ。」
「あははっ! でも借り物競走はコミュ障大爆発で、ダントツのビリだったの超笑った。あははっ。」
「笑い事じゃないよ! もう有り得ない!」
そうなの有り得ないの!
聞いてくれる?!
借り物競走って、コース上に部活名が書かれた封筒が置いてあって、封筒の中に借り物の指示が書いてあるじゃない?
だから、私が所属している、むしろ
ああ、拾いましたよ。
ドキドキワクワクしながら封筒を開きましたよ。
そしたら何て書いてあったと思う?
「「ブラジャー」」
一言。
クマさんのイラストが書かれた可愛い便せんに「ブラジャー」と。
ど真ん中に。
私は、目を疑いました。
むしろ二度見しました。
だって、借り物がブラジャーなんて有り得ないでしょ。
ブラジャーて。
花も恥じらう女子高生ですよ?
アオハルど真ん中ですよ?
「ブラ持ってる人ー!」
なんて叫べますか?
むしろ、そんなん誰が貸してくれるのよ。
誰が持ち歩いてるのさ。
身体につけてはいても、予備を持ち歩いてる人なんて、そうそう居ない。
ありえなくね?
叫べないから観客席に寝転がっている理亞ちゃんにお願いしたの。恥を忍んで。
したらね?
「まっじっで?! 借り物ブラ? ブラなん? ウケるー! マジで? 文面見せて? うわっ! マジだ! 写真撮っていい? パシャリ。いやーおもろいわー! ……え? 嫌だよ。そんなん貸すわけないじゃん。」
理亞ちゃんは、一通り喜んだ後、キッパリと、そしてハッキリと私の申し出を断ったのでした。
全私が泣いた。
絶対、理亞ちゃんSNSに投稿するよね。
……と言うか、この
今、考えてみれば、委員会室のホワイトボードに書かれていた「リア充爆ぜろ委員会五箇条」と筆跡が似ていた気がする。
理亞ちゃんは私の気も知らずに再び笑い転げる。
「いやー迷ったあげく由宇ちゃん、トイレ入ったの見てもう、お腹が
「もう! 笑い事じゃ無いよ! 理亞ちゃんブラ貸してくれないし、本当に困ったんだからね!」
まあ、理亞ちゃんは絶対貸してくれないのわかっていたので、ダメ元でお願いしたのだけれど、本当に貸してくれないとは。
恥ずかしくてイヤと言うよりは、私の困っているところを見たくて、面白いから貸してくれなかったのだ。きっとそうだ。
理亞ちゃんは、そう言う娘だ。
「あははっ! ごめんごめん。ノーブラでフィニッシュとかもう。助けて、笑いが止まらない。ひーひーっ」
「もう、他人事だと思って!」
まあ、もう終わったことだから、良いけれど。
前を向こう。
もう忘よう。
犬に噛まれたと思って、全て忘れよう。
と言うか、早く更衣室に行ってブラつけなきゃ。
早くノーブラ女子高生を卒業しなければ。
ノーブラになるなんて思ってなかったから、競技中ブレザーを着ていなかったのだ。
だから、ブラウスに直接乳なのだ。
生乳オンザブラウスだ。
乳を両腕で隠さなきゃ透けちゃう状態とか、ポロリと変わらない。ポロリは一瞬だけれど、スケスケは随時見えちゃうじゃないか。むしろ、生乳が見えちゃうよりもエロいんじゃないかと私は思う。
ホントもうお嫁に行けないよー。
「何だか楽しそうだな。そろそろリレーの予選が始まるぞ。」
腰くらいまである赤いハチマキをした委員長が、後ろから話しかけてきた。
気合い入ってるなー。
と言うのが、その姿から読み取れる。
まあ、かっこいいけれども。
女の私から見ても、その凜々しさにうっとりしてしまう。
理亞ちゃんは鼻を鳴らしながら言う。
「リレーですか。元陸上部の由宇が居るから余裕っすね。」
「そうだな。頼むぞ、西園寺由宇。」
明らかに元陸上部の私を期待しているのが分かる。
これは、今のうちに曲がった印象を払拭しておかないと!
「そんなっ! 陸上部と言ったって中学の頃だし、もう引退してから何ヶ月も経ってるから、現役の運動部には敵わないですよ。」
「またまたー。謙遜しちゃって!」
「謙遜なんてしてないって!」
理亞ちゃんは、本当に余計なことを言う。
委員長は、そんな私たちを見て一笑に付した。
「あははっ。まあ、思いっきりやってくれたら、それで良いさ。それで、リレーのルールだが。」
「ルールって、ただバトン持って走れば良いだけじゃないですか?」
頭に
私としては、悪い予感しかしないのだけれど。
委員長は説明する。
「そうなのだが、ちょっと癖があってな。」
「癖……?」
癖。
ヤバい。
これ、絶対ヤバい方の癖だ。
性癖の癖だ。
「そう。当校のリレーは、スウェーデンリレー形式で行われる。」
「スウェーデンって国の? 民族衣装で走るとかですか?」
理亞ちゃんは、コサックダンスを真似て踊る素振りをみせた。
理亞ちゃん……
コサックダンスはウクライナの伝統舞踊だよ。スウェーデン関係ないよ。
まあ、突っ込まないけれども。
何にしても癖と言うのが、まともな癖で良かった。
私はホッと胸を撫でおろす。
むしろ、スウェーデンリレーに対する知識が全く無い理亞ちゃんに私が教えてあげなければ!
あげなければっ!!
ければ!
元陸上部の使命感。
「そうじゃないよ理亞ちゃん! スウェーデンリレーって確か、第1走者が100m、第2走者が200mと言う風に、段々距離が伸びていくルールだよ。」
委員長が頷く。
「そうだ。さすが元陸上部だな、だから、後半の走者が長距離を走るからリレーの勝敗に深く関わっていくのだ。」
「なるほどっ! じゃあ、僕、第一走者やりますっ!」
ばしっと手を挙げる理亞ちゃん。
「うわー、理亞ちゃん、楽をすることに貪欲すぎる。」
私は溜息をついて呆れる。
と共に、自分の気持ちを瞬時に口に出すことができる理亞ちゃんが羨ましかった。
「……まあ、いいだろう。第1走者はスタートダッシュが大事だから責任重大だぞ。」
認めながらも、責任重大であることを理亞ちゃんに諭す委員長。
ここら辺は、流石、委員長。と言うところだ。
でも、理亞ちゃんは臆せず、元気良く答える。
本当、大丈夫かなあ……
「任せといてください!」
「全く、安請け合いして、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だよー。後で由宇ちゃんがリカバってくれるからね。」
「うわー。他力本願この上ないね。」
そう言うことか。
ほーんと理亞ちゃんって、ずる賢いと言うか、何と言うか……
「それで私が第四走者で、元陸上部の西園寺由宇が第三走者、そして、百々花が第二走者とする。」
委員長がリレーで走る順番を発表した。
第三走者ならアンカーより良いか。
うん、良かった。
まあ、そうだよな。委員長が、最終走者。まあ、順当な所だ。
でも300mか。
私は元陸上部と言っても短距離ランナーで、100m専門だ。
300mとかペース配分分からないんだよなあ。途中でバテたらどうしよう。最後、バシバシ抜かれちゃったら、もう元陸上部の面目丸つぶれだよね。
――ちょっと待ってくださいませ!
委員長に異議を唱える声が聞こえた。
この声はっ……!
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