第二項 ポロリ、チラリこそが我が校の伝統なのだ。

 絶対、このチラリポロリは委員長の陰謀だ。


 当の委員長はすっとぼけて話を逸らしたのだけれど、もうそれは委員長が生徒会長に口添えしたことを認めたと理解して良さそうだ。


 これ以上無く楽しそうな理亞ちゃんは私を諭す。


「まあまあ、由宇ちゃん、そんなに怒らないでさっ。スカートめくれない程度に走ればいいじゃない。」

「そんな器用なことできないよっ!」

「できるできる。あははははっ!」

「うわあ……絶対に他人事だ。」


 楽しそうだな……理亞ちゃん。

 これ絶対、私がチラリポロリすることを期待しているヤツだ。


 もう!

 絶対に、見せないんだからねっ!

 

「まあ、万一ポロリ、チラリがあったとしても大丈夫だ。何故なら観客は女性に限られている。虫けらの入り込む余地は無いから心配するな。」


 委員長はフォローにならないフォローをする。

 男とか関係ないよ。恥ずかしいよ。見られたくないよ。


 でも、登校時のことを思い返してみれば、男を完全に排除すると言い切った委員長の言い分は十分理解できる。


「そう言えば、校門で入場者のチェックをしていましたね。」

「そう、そこで性別確認、身分証確認、そして金属探知機、X線検査、目視で、カメラ等の撮影、録音機器が持ち込まれていないか、厳重なチェックを行う。」


「え、カメラもですか? 娘が活躍している姿を映像に残したい親御さんもいるんじゃないですか?」

「まあ、そうなのだが、西園寺由宇のポロリがSNSで流出したら困るだろう?」

「う、確かに。って、何で私がポロリ前提になっているんですかっ!」


 おいおい。

 口に出して言っちゃってるじゃ無いか。

 私のポロリ誘導を匂わせまくりじゃないか。


 そして、他人事を貫く理亞ちゃん。


「あはははっ! じゃあ、由宇ちゃんのポロリは僕の目に焼き付けておくことにするよ。」

「そう言うことになるな。まあ、私は本気を出せば特権で撮影も可能だがな。」

「やめてくださいっ!」


 この人、本当に本気で特権使いそうだからな。

 気軽に生徒会長を利用しているとしか。


 むしろ陰の理事長と言っても良いのではないだろうか。


 理亞ちゃんは、校門のチェック状況を見ながら呟く。


「それにしてもすごいよねー。飛行場とかコンサート会場の入場チェックの比じゃ無いよね。この運動会、おいくら万円かかってるんだろ。」

「まあ、少なく見積もっても、数千万はくだらないだろうな。」


「数千万?! 一高校の運動会のレベルを遥かに超えてますよ!」

「まあ、未然に犯罪を防ぐためと思えば仕方の無いことだ。」


 入場チェックに数千万の費用をかける学校。

 いくら女子校だとしても、やりすぎじゃないだろうか。どおりで、入学金が破格なはずだ。


 うちの親、良くこの学校に入れてくれたな。

 まあ、娘を溺愛する両親ではあるのだけれど……


 いや、それでも見直すべき所はあるだろう。


「そもそもポロリとかチラリが発生するルールを見直せば良いだけでは無いかと。」

「そこは譲れん。ポロリ、チラリこそが我が校の伝統なのだ。」

「そんな伝統いりません!」


 委員長ってば、もう学校を私物化してるやん。

 もはや自分の部屋じゃ無いか。


 部屋の中にフィギュアを置くかのように、学校の風紀をコーディネートしている。


 昔からそうだったのかな。それはもう卒業生に、委員長が入学する前のことを聞きたい衝動に駆られている。


 そして、しれっと話題の転換に入る理亞ちゃん、


「あははっ! まあ決まってしまったことは仕方が無いって。それで委員長、団体競技は何をするんですか?」

「うむ。団体競技で我が委員会が出場するのは、リレーと騎馬戦だ。」


 え、騎馬戦?

 私の知ってる騎馬戦は、委員会のメンバー3人じゃ出来ないのだけれどどうなのかな。


 3人では騎馬が組めても騎手が居ない。


「騎馬戦って、大体、馬役が3人と騎手1人で、あわせて4人ですよね?」

「そうだが。」

「そうだが。って、私たちの委員会って、委員長、理亞ちゃん、私の3人じゃないですか。1人足りないですよ。」


「そうだ。でもそれはあくまでも、通常体制の場合、だ。」

「通常体制……?」


 通常体制の場合。

 何かもう嫌な予感しかしない。


「リア充爆ぜろ委員会、陰のエースにして、最愛なる零様の恋人。私、鬼龍院百々花参上っっ!……ですわ。」

「生徒会長!」


 音も無く、颯爽と現れた生徒会長。

 そして、SAT女子隊員がバラの花びらを振りまいている。


 最近のSAT。

 本当に何でもするんだな。


 ちゃんと国を守りなさいよ。


 って、生徒会長って、そもそも……

 私と同じ疑問を持ったらしい理亞ちゃんも首を傾げる。


「あれ? 生徒会長って、リア充爆ぜろ委員会の委員なんですか? それに確か、私たちが委員会に初めて来たとき、委員長は「委員長にして委員。」って言ってましたよね?」

「うむ。私は委員長で、かつ委員だ。だが、1人で活動しているとは言っていない。百々花は非常勤の委員なのだ。百々花には生徒会活動があるからな。非常時に委員会活動をお願いしている。」


 なんとっ!

 今がその非常時だと言うのか。


 私の気持ち的にはじゃなくて、の方なのだけれど。


 生徒会長は、張り切り敬礼する。


「はい! 零様のためなら、私、いつでも喜んで命を差し出しますわ!」

「あはははっ。可愛いヤツだ。」


「零様、おしたい申し上げております……。」

「ふふふ、よしよし。可愛いヤツだな。」


 生徒会長の髪を優しく撫でる委員長。

 もう私の妄想では、2人の間に百合の花が舞っている。


 まるで京都にある女性に人気の舞台のようだ。

 私には委員長が男装の麗人にしか見えない。


 と、言うか。

 生徒会長は、生徒会……


「そう言えば生徒会も競技に参加しているんじゃなかったでしたっけ? 生徒会長なのに、ここに居て大丈夫なんですか?」

「この子ネズミは何を言っておりますの。私は命よりも零様が大事と言っているじゃありませんか。生徒会は下々の者が対応すれば十分ですわ。この私が直々じきじきに出るまでもござません。」


 生徒会よりもリア充爆ぜろ委員会を優先する我が校の生徒会長。


 それ、いいの?

 生徒会の役員は納得しているの?


 まあ、理事長の令嬢に文句を言える生徒なんて居ないと思うけれど。


 理亞ちゃんが生徒会長に問う。


「ちな運動の方は?」

「お任せください! 私、零様のために命をけて……!」

「おおー言い切った!」


 潔いほどに言い切る生徒会長に手を叩く理亞ちゃん。


 ただ、運動神経については一言も触れていないのが気に掛かるけれど、気づかなかったことにしよう。


 委員長が話をまとめる。


「と言うわけで、団体競技は、百々花を含め4名での参加となる。」

「そう言えば去年は、委員長と生徒会長の2人だったんですよね? 運動会は、どうだったのですか?」

「その通り。去年は2人での参加で、団体競技も2人での参加だった。」

「2人?! 良く参加を許可されましたね、どうやったんですか?」


 有り得ないだろ。

 運動会で、2人のチームとか。


 この疑問が副委員長により明かされる。

 

「それは、簡単です。私からお祖父じいさまにお願いしたらスグに通りましたわ。」

「お祖父さまって、理事長?! 流石やり方がエグい。」


 驚く理亞ちゃん。

 もう、じぃちゃん孫から良いように利用されてるな。


 それでも2人。

 団体競技に参加できるとは思えない。


「騎馬戦とかリレーは、どうやったんですか?」

「騎馬戦は、私が百々花をおぶって、リレーは、私が3人分走った。」


 もう、力技だな。

 リレー3人分走るとか、常人とは思えない。


 うっとりと何かを妄想している様子の生徒会長。


「零様の背中、暖かかったですわ……」

「あはは。百々花は私のことを終始しゅうし抱きしめていたから、全くいくさにならなかったな。」

「もう、嫌ですわ零様、照れます……」

「あはははっ! それで去年は優勝を逃したから、今年こそ優勝せねばならん。」


 百合。

 一言だ。


 運動会の域を脱している。


 騎馬戦で、おんぶとか、しかも抱きしめてるとか、戦場の中で何をやっているんだ。


 そんなんじゃ優勝どころか、参加賞でもやっとだろう。


 結果をわかっていながらも聞いてしまう意地の悪い私。


「優勝を逃したって、何位だったんです?」

「うむ。全体で2位だが。1位とは1点差でな。本当に惜しかった。」


 ちょっと?

 2位って?


 2人で2位?


 それ、すごくない?


 理亞ちゃんもビックリしている。


「すげえっ! 2人で2位とか、団体競技の意義が崩れ去ってる!」

「騎馬戦で、百々花が攻撃してきた騎馬を殴って失格になってしまったからな。それが無ければ優勝だった。」

「だって、せっかくの零様との至福の時間を邪魔するのですもの。」


 おいおいおい。

 邪魔って。騎馬戦の本来の意義がわかっているのか。殴られた女生徒が可哀想すぎる。

 

 それでも、笑って受け入れる委員長。


「あはははっ! 今回は頑張ろうな。」

「もちろんですわっ! 去年は油断しましたが、今年こそ、どんな手を使ってでも優勝しますわ!」

「どんな手を……って生徒会長が言うと怖い。」


 SATを使って色々とやらかしそうだ。

 恐怖でしか無い。


 この人と敵になったら、何をされるか分かった物では無い。


 味方で良かった。

 味方でも色々と苦労しそうだけれど、敵になるよりかは幾分かマシだろう。


「さあ、始まるぞ。」


 委員長が号令をかける。


 と、言うわけで、慶蘭女子高等学校の運動会が始まったのでした。

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