第四条 女だらけの大運動会~部活対抗リレー(予選)~

第一項 ポロリもあるぞ!

 今日は、慶蘭女子高等学校の運動会。

 部活に入ることが必須である我が校は、競技が部活対抗で行われる……そうだ。


 私は思うのだ。

 普通にクラス対抗で良いじゃないか。


 何故、部活対抗で運動会を開催する必要があるのか。


 そもそも部活対抗とか部員数にもかたよりがあるだろうし、運動部が圧倒的有利で不公平じゃ無い?


 私が入っているのはリア充爆じゅうはぜろ委員会。

 委員会なのに、前のめりで部活として運動会に参加するそうで、本当に迷惑でしかない。


 委員会は、で個性的な枯石零委員長、クラスメイトで自由人の西園寺理亞ちゃん、そして私の3人だ。


 みんなキャラが濃くて、普通なのは私だけ。


 いや、私、普通だよ?

 ホントにホントに、ちょぴりお茶目な可愛い普通の子。


 まあ、皆さんも委員長と理亞ちゃんを見てたらきっと、私が普通だと納得してくれるだろう。


 ホント、何をやらされるかわかったものでは無い。


 いつもクールな委員長は、珍しく拳を突き上げて叫んだ。


「よーし! ついに待ちに待った運動会だ!」

「よっしゃー! やったるでーっ!」


 太鼓持ちの理亞ちゃんも委員長の号令に続く。

 素直な理亞ちゃんをウンウンと頷きながら優しい眼差しで見つめる委員長。


 だがしかし、委員長はサラっとを言ってのけるのだった。


「良い心がけだ。女だらけの大運動会、ポロリもあるぞ!」

「なななななんとっ!」

「ふふふ……これはもう、たまらんぞ。」


 驚く理亞ちゃんに、今にもヨダレがたれそうな委員長。


 だらしがないなあ……もう。


 と言うか、そもそも。


「ポロリって、何ですか?」


 うん。何それ?

 何か落ちるの?

 ぽろりんって。


 落とされるの?


 運動会で、私、落とされるの?

 マイナスなイメージしか生まれてこない。


 理亞ちゃんは笑いながら、私に耳打ちしてくれた。


「え、由宇ちゃん、ポロリしらないの? さすが純情娘だねー。ポロリって言うのはー、こぼれるんだよ。あのね? おっ……が……で……になって……こう……ポロリって。」

「えええええっ?! そんなの犯罪ですよ!」


 ないないない。

 ないないない。


 3回言う。


 ないないない。


 そんなの何の得があるのだ。

 女だけの運動会で誰得なんだ。


 あ、委員長得だった……


 委員長はニヤニヤと微笑んだ。


「なに言ってるんだ。ポロリは運動会の最大のだぞ。」


 乗っかる理亞ちゃん。


「おおおっ! ガチ百合勢の委員長にはたまりませんねっ!」

「全くだ。このポロリのために学園生活を送っていると言っても過言では無い。」


 待て待て待て。


 過言でしょ。

 運動会ポロリのためだけに学園生活送るとか無い無い。


「やめてください! ポロリとか通報案件ですよ。それに、どこをどうすればポロリなんてことになるんですか?!」

「ビキニで行われる競技もあるからな。ポロリは不幸なアクシデントだ。だがしかし、故意では無いからセーフだ。」


 ビキニっ!

 その必要性とはっ?!


 陸上の世界では、確かに女性の短距離ランナーはセパレート型で上下分かれたユニフォームを着ることがある。私もランナー時代は着ることがあった。


 けれど、それは空気抵抗を押さえるためであって、ポロリを誘発させる為では無い。


 決して無い。

 皆、0.1秒を削るために必死なのだ。


 そんなポロリを期待する欲望のために着ているわけでは無いのだ。


 なのに理亞ちゃんったら。


「なるほど、アクシデントなら仕方が無いですね。ギリセーフです。」

「高校の運動会でビキニとか、余裕でアウトだよ!」


 アウトアウト!!

 いくら女子校とは言え、恥ずかしすぎる!


 万一、ポロリなんてことがあったらもう生きていけない。お嫁にいけない。


 上にTシャツ着るとかアリなのかな。


 そんなことしたら、委員長に素手でTシャツ破られそうだけど。


 委員長は、あからさまに諦め顔で言う。


「そんなことは無い。校則で決まっているのだから、生徒としては従うしかないだろう。」


 やれやれ……と両腕を横に広げる委員長。


 あなた、そんなこと微塵も思っていないだろう。


 むしろ、前、前、前のめりだろう。


 前傾にもほどがあるだろう。


「まったくもう。……って、あ、そうかっ!」

「なんだ? 西園寺由宇。」


 パッと一筋の見解が閃く私。


「ビキニで競技するとか、絶対委員長が、理事長の娘の鬼龍院百々花さんに頼んで決めたんですね!」


 絶対そうだ。


 ――その間、2秒。


「……さて、競技の担当だが。」


 あからさまに、不自然な間で話題を逸らす委員長。


 何か言いた気な私の顔を見て、ポンポンと肩を叩く理亞ちゃん。


「まあまあ、由宇ちゃん、決まったことは仕方がないよ。がんばろ?」

「絶対、理亞ちゃん楽しんでるでしょ。」

「えへへ、バレた?」


 理亞ちゃん、こう言う子だった。

 理亞ちゃんだって、ビキニ着るんだからね!

 ポロリだってあるかも知れないんだからねっ!


 ポロリだってあるかも……ううう、悲しみしかない。


 委員長は、私を尻目に話を進める。


「個人競技は全て西園寺由宇、団体競技は委員会メンバー全員だ。以上。」


 ほうほう、個人競技は全部私かあ。


 任せといてっ!


 って、おい!

 すっかり、ノリツッコミが板についてきた私。


 嬉しくない。


「ちょ、ちょっと待ってください! 個人競技全部って、徒競走、障害物競走、パン食い競争、借り物競走……結構ありますよ! 死んじゃいますって。」


「で、団体競技だが……」

「聞いてください! 話を逸らさないで! 話を進めないでー!」


 あわあわしている私をたしなめる理亞ちゃん。 


「まあまあ、この委員会は運動神経が良い元陸上部の由宇ちゃんが頼りなんだよ。」

「うう……こんなポロリ運動会のために陸上やってた訳じゃ無いもん。」


 むしろ知らなかった。

 受験時の学校案内のパンフレットにもビキニ姿の女子高生なんて載っていなかった。


 だまされた。

 委員長は私の肩をポンと叩いて微笑んだ。


「期待してるぞ。」

「そんなこと言われても嬉しくないですよ。はあ、もう良いですよ。運動会始まるから、制服着替えないと。」


 と言うか、開始直前なのに校庭でダベっている場合では無い。早く体操着に着替えなきゃ。


「着替える必要は無いぞ。」


 と、更衣室に行こうとする私を呼び止める委員長。


「ええ? なんでですか?」

「それはだな。各チーム、部のユニフォームで出場することになっているのだ。我が委員会のユニフォームは、この慶蘭女子高等学校の制服だからな。」


 まあ、ビキニを着させる学校だ。

 制服で競技に出るのもまあ、うん、想定内ではある。


「全く、おかしな学校ですね。動きにくいじゃないですか。はあ、しょうがない。スカートの下にジャージ履けばなんとかなるか……」

「だめだっ!」


 委員長は私の答えを激しく遮った。

 激しく元気良く遮った。言い切った。


 いや、何を言ってくれてるんですか。


「何でですか! パンツ見えちゃうじゃ無いですか!」

「だから言ってるだろ。ポロリもあるが、チラリもあるのが、当学校の運動会のウリなのだ。スカートの下にジャージなんて邪道は神が許しても私が許さん!」


 だからの意味。

 ポロリ、チラリって何なのだ。


 スカートで転んだらチラリどころか、おっぴろげじゃないか。


 まさか、これは……


「そ、そんな……もしかして、これも委員長の陰謀……」


「じゃあ、団体競技だが……」


 改めて、あからさまに話を逸らす委員長だった。

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