第五項 最近のSATは建築もするんですか?

「まあな。ちなみにリア充爆ぜろ委員会の発足も、百々花の力添えがあってこそなのだ。」


 え、リア充爆ぜろ委員会の発足と、生徒会長に何の繋がりがあるのだ?


 うーん。

 良く分からなくなってきた。


 それでも生徒会長の照れは、止まらない。

 これがツンデレと言うヤツなのだろうな。初めて生で見た。


「そんな、零様、照れますわ。」

「謙遜することは無い。百々花、君のおかげだ。」

「零様……」


 見つめ合う委員長と生徒会長。

 もうすっかり、2人の世界に浸ってしまっているようだ。


 理亞ちゃんが、2人の世界に割って入る。


 ――もしかして:ヤキモチ


 ゴーグル先生に聞いたら速攻表示されそうな理亞ちゃんのリアクション。理亞ちゃんの頭からは、プンスカ煙が立ち上がっているようだ。


「見つめ合ってないで! 教えてくださいよ! リア充爆ぜろ委員会の発足が! 生徒会長のお陰って! どういうことですか?!」


 盛りだくさんだ。

 最後はのオマケ付きだ。

 それはもうお祭り騒ぎである。


 流石の委員長も理亞ちゃんのヤキモチを感じ取ったのか、理亞ちゃんのことをたしなめる。


「まあ、落ち着け。百々花の祖父、鬼龍院きりゅういん権蔵ごんぞうは、鬼龍院財閥の総帥そうすい、そして、当校の理事長なのだ。理事長は、孫の百々花のことを大層、可愛がっていてな。百々花が理事長に委員会の発足を頼んでくれたのだ。そして、鶴の一声でリア充爆ぜろ委員会の発足が正式に承認されたわけだ。」


 え、この学校の理事長って、鬼龍院財閥の総帥なの?!


 そんなカラクリが裏にあったなんて驚きだ。

 

 理亞ちゃんは、一瞬驚いた素振りを見せたのだけれど、委員長から発せられた衝撃の告白を冷静に受け止めた。


「ああーそうですよね。1人で委員長、委員兼任なんて、普通通りませんもんね。しかも活動内容がリア充爆ぜろ活動なんて、お嬢様学校に似つかわしくないし……」

「そうだ。さすがの私も、新しく委員が入ってくるとは思わなかったけどなっ。嬉しい誤算だ。あはははっ!」


 高らかに笑う委員長。

 この人、1人で3年間爆ぜろ活動するつもりだったのか。


 むしろ、1人でやって欲しい。

 何なら、理亞ちゃんはあげるから。


 私は、軽音部が良かったのだ。

 ドラムとか叩いちゃって、学園祭とかでノリノリで盛り上がりたかったのだ。


 ちなみにギターは目立ってしまうから、一番後ろでハイハットに隠れて顔がチラッチラッと見えるくらいのドラムが良いのだ。


 目立たず適度に楽しみたい。


 これが今年のテーマである。


 これが、この野望がだよ。

 今、まさに打ち砕かれている訳ですよ。


 もう溜息しか出ない。


「ホントだよう。理亞ちゃんのせいで、とんでもないことに巻き込まれてるよ……」

「ん? 何か言ったか?」

「な、何でもないです!」


 やばっ。

 思わず心の声が漏れ出てしまった。


 まだ私は軽音部への道を諦めた訳じゃないんだからねっ!


 生徒会長は、何かを手に持って私たちに声を掛ける。


「さあ、零様と子ネズミさん、その制服は汚いから、この制服にお着換えくださいな。」


 この制服?

 委員長は、包装カバーに入った制服を私たちに差し出した。


 ゲス女の理亞ちゃんは両手を挙げて喜ぶ。


「うっわ! 新しい制服だ! しかも今着ている制服と比べ物にならない程、素材がいい!」

「鬼龍院ブランドの制服だからな、モノはいいぞ。」


 制服を受け取りながら、委員長は言う。

 爆さんが触れた……虫けら菌が付いたと言う理由だけで、瞬時に制服フルセットが出てくるなんて、本当に生徒会長は生粋のお嬢様なのだな。


 いいなあ、私も爆さんに触れておけば良かった。


 私がよこしまなことを考えていると。


「ほら、あなたも。」

「え、私もいいんですか?」


 生徒会長は、私にも新品の制服を差し出した。


「ええ、もちろん。零様と行動を共にするのに、見窄みすぼらしい恰好かっこうをされては困りますもの。」


 生徒会長は、新しく取り出した扇子を閉じたまま口に当てて、フフっと微笑ほほえんだ。きっと、あの扇子も高いのだろうな。


 でも、超高級制服フルセット3着、おいくら万円するのだろう。


 もしかしたら、おいくら十万円、おいくら百万円の域なのかも知れない。いやもう自分が何を言っているのかわからない。


 そういや、どっちにしても着替えるのは家に帰ってからかな。むしろ明日の朝に新品の制服をおろす形になるだろう。


 デザインは変わらないけれど、発色が違う気がする。着心地が楽しみだ。


「さあ、あそこで着替えていらっしゃい。」

「ええっ?! いつの間に!」


 生徒会長が指さした先には、いつの間にか新築のログハウスが建てられていた。


 言われてみれば、木材の良い香りが漂っている気がする。


 いやいや、工事の音なんて、何もしなかったよ?

 防音どころか無音だったよ?


 最近のSATは建築もするんですか?

 

 流石の理亞ちゃんも大きく目を見開いて驚く。


「勝手に公園の中に家建てちゃって大丈夫なんですか?!」

「ふふふ、あなた達が着替え終わったら解体するから大丈夫ですわ。」

「解体って、ぶっ壊すってことですか?! こんな立派な家を一瞬で壊すなんて勿体もったいなさすぎますよ!」


 理亞ちゃんの言う通りだ。

 私たちの着替えが終わり次第、新築のログハウスも解体するとか。普通では考えられない。


 新築だよ?

 別荘レベルのクオリティだよ?


 しかも高原でペンションとか開けそうなくらい大きいよ?


 これをほんの数十分で解体してしまうとか有り得ないでしょ。


 むしろ築60年の私の家と交換して欲しい。


 目を白黒させる私を見て、委員長が高笑いする。


「あははははっ! こんなことで驚いていたら、百々花とは付き合えんぞ。」

「いやいや、そんなもう、住んでる世界が違いすぎますって。」


 私の反応を見て生徒会長は、委員長に寄り添って微笑んだ。


「うふふ。だから、私は、零様とお付き合いしているのですよ。零様は、私以上に偉大な方なのです。」

「こらこら、百々花。誉めすぎだぞ。」

「そんなこと無いですわ。零様のためなら、私、死ねますもの。」

「何を言ってるんだ。私が、百々花を死なせる訳ないじゃないか。私が百々花を全力で守る。」

「零様……うれしい……」


 生徒会長は、赤らめた顔を隠すように両手を頬に当てて喜ぶ。


 私は何を見せられているのだろう。

 死ぬとか守るとか、話が壮大すぎて付いていけない。


 理亞ちゃんも白旗を揚げる。


「うわー。もうラブラブすぎて見てられないですよー。勘弁してください!」

「あはははははっ!」


 と、言う訳で、爆さんの騒動は、一件落着となった。むしろ最後の方は爆さんの存在自体が忘れられていたような気がするけれど。


 あの人、また懲りずに来るのかな。

 ううー、面倒なことに巻き込まれたくないなあ。


 それに生徒会長にして理事長の孫、百々花さんが登場したことで、リア充爆ぜろ委員会、更に賑やかになりそうだ。


 大財閥の令嬢に好かれる委員長、一体、何者なのだろう。

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