第四項 G並みの生命力ですね。

「お、おい、お前、ら……」


 後ろを振り返ると爆さんがフラフラと立ち上がろうとしている。委員長のキックを受けても立ち上がることができるなんて、腐っても全日本カポエイラ大会2位と言うことか。


 まあ、頭から血が噴き出ているけれど。ぴゅーって。


 理亞ちゃんは、爆さんを指さして無感情に言った。


「あ、虫けら生きてた。G並みの生命力ですね。」

「虫けら言うなっ! G言うな!」


 まだ、爆さんも理亞ちゃんにツッコミを入れる元気を残しているようだ。それに目は、憎悪に満ちている。力強い目をしていた。


 この人、まだ、戦う気満々のようだ。

 懲りないなあ……


 爆さんの姿を見て、流石の委員長も呆れて呟いた。


「まだ懲りないようだな。」


 そして、委員長は男に向かって迎撃態勢を取った。一分の隙も見せていない。


 だけれど生徒会長は、音もなくスッと委員長の前に歩み出た。


「零様、お待ちくださいませ。この虫けらは、私の下僕が対応いたします。お前たち、虫けらを排除なさい。」


 ――ザザッ


 生徒会長がスッと右手を挙げると、あっと言う間に武装した下僕たちが爆さんを取り囲んだ。


 流石の爆さんも驚愕する。

 

「うわっ! なんだなんだ?!」


 防御盾を持つ生徒会長の下僕たち、と言うか兵隊と表現した方が良さそうだ。数百人の兵隊が爆さんの周囲を取り囲む。そして、後方部隊はライフル銃で爆さんのことを狙っている。


 その光景を見て委員長は、と言う表情で生徒会長のことをたしなめる。 


「おいおい、こんな虫けらにSATサット使わなくても良いだろ。」

「えっ?! SATって特殊急襲部隊とくしゅきゅうしゅうぶたいのSAT?!」


 SATと言うキーワードを聞いて敏感に反応する理亞ちゃん。


 武術系とか、こう言う軍隊みたいの詳しいのかな。良く居るよね、勉強は全然しないけれど専門的な分野は必要以上に詳しい人。理亞ちゃんは、そっち系か……


 委員長は、理亞ちゃんに向き直って説明する。


「そうだ。百々花には、特殊急襲部隊SATが常時警備についている。鬼龍院財閥きりゅういんざいばつは、日本、いや世界で有数の大財閥だからな。」

「そんな大したことありませんわ。わざわざ零様のお手をわずらわせることもございません。」


 謙遜する生徒会長。

 って、謙遜の仕方おかしい。SATよりも委員長の立場が上になっちゃってるよ。


 ヒエラルキーの崩壊だよ。

 トランプの大富豪で革命起こされちゃったくらいの衝撃だよ。


 私の場合、大貧民の時が多いから、革命起こして貰った方が助かるんだよな。


 駆け引きは私の超苦手分野だ。


 ……話を戻そう。


 委員長も、半ば呆れ顔で生徒会長のことを宥めた。


「いやいや、こんな虫けらに国の税金を使うことなんて無いと思うぞ。」

「はあ、零様が、そこまで仰るなら……お前たち、その虫けらを確保して刑務所にぶち込んでおきなさい。」


 委員長に諭された生徒会長は、残念そうに渋々SATへ向けて改めて指示を出した。


 って、結局SAT使ってるじゃ無いか。

 これの措置が生徒会長にとってのってことなのかなあ。ってことは、もしかして生徒会長は爆さんのことを射殺する気満々だったのかも知れない。


 こえぇ。

 こえぇよ生徒会長。


 自分の手を汚さず、指一本で人をあやめることができるなんて。


 こえぇ。

 仮に殺したとしても、何かの強い権力で揉み消しちゃうんだろうな。


 何かの強い権力……考えたくない。

 ヘタに権力のことを調べちゃったりしたら、みじんこな私なんて、一瞬にして揉み消されそうだ。揉むどころか踏みつぶされちゃいそうだ。


 そもそも生徒会長を敵に回さないように気をつけよう。齢15年で人生を終わらされては堪った者では無い。


 SATに羽交い締めにされて、ジタバタと抵抗する爆さん。


「おい、こら、やめろ! 放せ!」


 特殊訓練で鍛えられたSAT隊員複数人に羽交い締めにされて、動けるわけが無い。


 あーあ。

 足まで羽交い絞めにされちゃってるよ。


 さすがプロ、手際が良いなあ。

 爆さんは、まるでエジプトのスタンカーメンの棺みたいなポーズに固定され、いつの間にか待機していた護送車ごそうしゃにぶち込まれた。


「覚えてろよー! あぐぐぐ。うーん……」


 爆さんが叫ぶと同時に、SAT隊員は彼の口にガーゼのようなものを突っ込んだ。


 それはもう流れ作業のように。


 そのガーゼには睡眠導入系の薬品が仕込まれていたのか、一瞬にして爆さんは眠ってしまったようだ。


 理亞ちゃんは生徒会長に対して恐縮して、お辞儀をしてお礼を言う。


「あ、あの、生徒会長、助けて頂いてありがとうございます!」

「どうってことありませんわ。私は、零様のために動いただけですから。」


 髪の毛をサラっと払いながら答える生徒会長。

 フワッと良い香りが周囲に漂う。そして、彼女がまばゆい光に包まれているように感じる。


 オーラが違う。

 かっこいい……


 仮に、私が髪を払ったところで「何するんだよ。汚ねーな、フケとぶじゃねーかっ!」くらいにしか思われないに違いない。


 委員長は生徒会長のことを労う。


「私のために悪かったな。百々花。」

「とんでもございませんわ。零様のためでしたら、私、どんな恥ずかしいことでも……いたします。きゃっ!」


 頬に手を当てて、赤くなって委員長から目をらす生徒会長。委員長の労いを、自分の都合に良いようにとらえたらしい。


 そんな生徒会長を見て、パッとシャボン玉が弾けたように笑う委員長。


「はははははっ! 百々花は可愛いなあ。」

「委員長は、すごい人のハートを射止めた訳ですね。」


 理亞ちゃんは委員長のことを羨望の眼差しで見つめる。


「まあな。ちなみにリア充爆ぜろ委員会の発足も、百々花の力添えがあってこそなのだ。」


 生徒会長の力添えがあって、リア充爆ぜろ委員会が発足した……え、リア充爆ぜろ委員会の発足と、生徒会長に何の繋がりがあるのだ?

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