第三項 零さまーーーっ!
ナイフが一直線に理亞ちゃんの胸に向かって振り下ろされる。
爆さんに向かってジャンプする委員長。
だがしかし、委員長のキックよりもナイフのスピードが勝っていた。
理亞ちゃんのブレザーにナイフが刺さる。
瞬間。
「い、いてええっ!」
奇声を上げたのは、理亞ちゃんでは無く爆さんの方だった。
ナイフよりも早く、空から一筋の光が爆さんのナイフを持っている右手に向かって急降下。一筋の光は、爆さんの右手を直撃し、ナイフが消し飛んだのだった。
「ぐはあああああっ!」
遅れること0コンマ数秒、委員長の回し蹴りが爆さんの顔面にメガヒット。
委員長のキックの勢いで、爆さんの体は後方にぶっ飛んだ。
「ぎゃふうっ……!」
「いいんちょーーーーっ!」
爆さんから解放された理亞ちゃんは、委員長に飛びつき抱き着いた。
「よしよし。大丈夫だったか。偉かったな。」
「ふえええーん。怖かったよう。」
さっきまで何でも無いように振る舞っていた理亞ちゃんだったけれど、実際は無理をして強がっていたようだ。
委員長は、理亞ちゃんの頭を優しくヨシヨシと撫でる。
「もう大丈夫だ。それにしても、風祭理亞に抱き着かれたら、私にも虫けら菌が移ってしまったな。私も制服をクリーニングに出さなければならなくなったな。あはははははっ!」
「もう、委員長、ひどいですよー!」
「あははははっ! すまんすまん。」
じゃれ合う2人。
まあ、何にしても理亞ちゃんが無事で良かった。
殺人事件にならなくて良かった。
委員長と私、2人だけの委員会にならなくて本当に良かった。
私に1つの疑問が湧き上がる。
「それにしても、あの爆さんに向かって行った光は何だったんだろう……」
「ああ、それはだな。上を見てみろ。」
委員長は空を指さした。
逆光でよく見えないが、ヘリコプター?
「零さまーーーっ!」
こちらに向かって手を振る女性の姿。
私は額に手を当てて、目を懲らして女性の方を眺めた。
って、え?
「……生徒会長?」
委員長の指し示す指先の方向を見てみると、ヘリコプターの扉を開け手を振っている生徒会長の姿が見えた。
いやいや、危ないって!
落ちちゃうって!
「そうだ。生徒会長、そして、私の最愛なる恋人、
委員長は、生徒会長の姿を見ながら私に解説してくれた。
って、き、鬼龍院財閥?!
経済に疎い私でも知っている最大にして最強の鬼龍院財閥。
総資産は数千兆円とも言われている。
その大財閥の令嬢だと言うのか。
「零さまーーーっ! 今すぐ、お
生徒会長は、数百メートルも上を飛んでいるヘリコプターから、
えいっじゃないよ!
可愛く言ったって、死んじゃうものは死んじゃうよ!
飛び降り自殺だよ!
おまわりさん案件だよ!
そんな私の心配をよそに、生徒会長は髪を
左腕一本で、がっしりと生徒会長のことを抱き止める委員長。
おいおい、マジかよ。
ちなみに右腕は理亞ちゃんを抱いている。
あんな高さから飛び降りた人間を受け止めるなんて、しかも左腕だけで。
有り得ない。
相当な衝撃だと思うのだけれど、むしろ腕の骨折れるでしょ。普通に考えたら、生徒会長、地面に直撃でしょ。
それでも委員長は、何事もなかったかのように生徒会長を受け止めて優しく微笑んだのだった。
「やあ、百々花。助かったよ。」
「零様のためなら、訳ありませんわ。私の手助けは不要と思いましたが、零様の手を
委員長のことをうっとりとした顔で強く抱きしめる生徒会長。
委員長は、生徒会長を左腕、理亞ちゃんを右腕で抱きしめる
「そうか。本当に、ありがとう。百々花。」
「嫌ですわ。私たちは、恋人同士。礼にはお及びませんわ。」
「ふふっ。そうだな。」
恋人同士。
そうだった。この鬼龍院財閥のご令嬢と委員長は付き合っているのだった。
委員長ってば
え、そうなの?
女同士でも玉の輿とかあるのだろうか。よく分からないけれど。
「それで……この子ネズミ達は何ですの?」
生徒会長は、私と理亞ちゃんを交互に眺めて、
今更、生徒会長は、理亞ちゃんと私の存在に気づいたようだ。
いや、少なくとも理亞ちゃんは、あなた達がイチャついている最中、ずっと隣に居たじゃないか。むしろ身体が密着していたでは無いか。
どんだけ2人の世界に入り込んでいたと言うのか。
委員長は笑いながら私たちのことを生徒会長に紹介する。
「ああ、この前、話したろう? リア充爆ぜろ委員会の役員だ。」
「ああ、この子たちが……とりあえず、零様から離れなさい。」
「わあっ!」
委員長に抱きついていた理亞ちゃんのことを引きはがす生徒会長。
「まったく、汚らわしい。あなた方みたいな下民が零様と話すことが出来ていること自体、奇跡なのですわよ。」
「下民言われた! どいひー!」
ショックを受ける理亞ちゃん。
けれど、鬼龍院財閥の令嬢から言ったら、私たちなんて下民なのは間違いないのは確かだ。むしろ下の下だ。みみずだ。おけらだ。みじんこだ。
みんなみんな生きているんだ。
友達なんだ。
そんな理亞ちゃんのことを笑い飛ばす委員長。
「あはは! まあ、気にするな。百々花の挨拶みたいなものだ。」
それでも、私は1つの疑問を拭えきれないのだった。
委員長に手を挙げて聞いてみる。
「あ、あの、質問いいですか?」
「なんだ? 西園寺由宇。」
「えっと。さっき男に向かって、急降下してきた光は何だったんですか?」
「ああ、それはだな。あれだ。」
委員長は、地面に向かって指さした。
「
扇子に金の飾り、タッセルがつけられている。
光っていたのはタッセルだったようだ。
「あの扇子は、とても高価で数百万は下らない。」
「す、数百万……?!」
ちょっとちょっとっ!
そんな高価なものを投げちゃダメでしょ。価値が下がっちゃいますよ。傷がついたらどうするんですか。
……って、何百メートルも上から投げられたのだから、間違いなく傷ついちゃってるよね。
弁償しろなんて言われたら、もう土下座するしか無いな。なんて、私と理亞ちゃんが並んで土下座したところで、数百円の価値も無いと思うけれど。
普通の女子高生にそんな数百万円も払える経済能力なんてある訳がない。安物のリップクリーム買うのだって悩むくらいなのだから。
もう身体で払うしかないのかしら。この若くてピチピチしたJKの身体で何とかするしかないのか。
だがしかし、私の心配は無用だったようだ。生徒会長は、髪を右手でサラッと払って言ってのけた。
「そんな扇子、安いものですわ。それに虫けらに触れてしまったからもう、その扇子いりませんわ。汚らわしい。」
なんですって?!
い、いらない?
数百万円ですよ?
お年玉何百年分ですか?
毎月のお小遣い何千万年分ですか?
数百万円もドブに捨てるようなことをするなんて、この人は何者なのだ。
まあ、鬼龍院財閥のご令嬢なのだけれども。
理亞ちゃんの瞳が
「う、うっひょおおおおおお! この扇子、もらってもいいっすか?」
「好きにして頂いて構いませんわ。」
「ひゃっほー! エルカリで、いくらで売れるかなあ、ぐふふふふふ。」
「うわー。理亞ちゃん、ゲス顔になってる。」
まじか。
こう言う時、理亞ちゃんみたいな何にでも動じない
いくら傷があると言っても、金のタッセル、これだけでも高額で売れそうだ。
浮かれる理亞ちゃんに対して、委員長は冷酷に言い切った。
「まあ、その扇子を拾った時点で、委員会を辞めてもらうがな。」
「うわっ! きっつ! それきっつ! じゃあ、諦めます。」
諦めちゃうのかっ!
数百万より、リア充爆ぜろ委員会を選ぶのか!
アホかっ! どんだけ委員会が好きやねんっ!
そりゃあ関西弁にもなりまんがな。
って、ことは……
「え、扇子拾ったら、委員会辞めていいんですか?!」
「いや、お前はダメだ。リア充爆ぜろ委員会の副委員長だからな。拾うことも許さんし、辞めることも許さん。」
「ふええ……」
ずるいっ!
委員長は、私と理亞ちゃんのことを見透かしているように上手く使い分けている。
ああ、私の百年分のお年玉が……がっくりと膝を落とす私。
「お、おい、お前、ら……」
私たちの後ろから、爆さんの声が聞こえた。
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