ケミカルスライムのいん謀

「さて、窒素、酸素、フッ素はジャイ○ン、暴れ者! と繰り返したところで、次は少し力を抜いて、ホウ素で作った可愛いおもちゃ。それで遊んでみませんか?」

 復習と予習を兼ねたさり気ないアイキャッチ。


「わぁ~どんなおもちゃなんですか~?」

「ホウ素ってよく知らないけど大丈夫なの?」

「勿論、安心安全なおもちゃですよ。まあ見てみて下さい、これが……」


 彼女たちに見えるよう、箱を胸の辺りまで持ち上げ……ひっくり返す。


「ホウ素スライムB君です!」

 ねと~っと、青く透きとおったゲル状の物体が、演台の上に落ちていく。


「うわー懐かしいー」

「え~、なんですかそれ~?」

「そう言えば、小学校で作ったっけ」

「……何か、気持ち悪いです」

 羽切さん以外には概ね好評な感じかな。


「ホウ素と洗濯糊で作ったおもちゃ、ホウ素スライムB君です。青く透きとおってて綺麗でしょう。よければ実際に触ってみますか?」

「え~、いいんですか~?」

「はい、勿論。ボクはわるいスライムじゃないよ」

 スライムを箱に戻し、櫻井さんのところに持って行く。


「緩く固まってるので安心して遊んで下さい」

「わぁ~ちょっと気持ち悪いです~」

 早速スライムで遊び始める櫻井さん。白いたおやかな指が思うままスライムを弄ぶ。いや、粘り着くスライムに、櫻井さんの可憐な指が抗うように悶えるように覆われて……(※個人の感想です)


「そんなのよく持てるわね」

「え~、すぐ慣れるから襲ちゃんも持ってみて~」


 櫻井さんの指から垂れるだらしない粘液が、羽切さんの指を味わうように嘗めていく。肌を這うものの感触に細い指を震わせながら、

「うっ?、やっぱり気持ち悪い……」

零れた言葉とは裏腹に、指は艶めかしく次第に夢中になっていく……(※個人の略)


 可愛い子が持つだけでこの破壊力、恐るべしスライム。


 頃合いをみて、

「奥原さんと黒森さんもどうですか?」

「んー、私はいいや。昔遊んだことあるし」

「私も」


 そうですか、ちょっと残念だけど、仕方ない。じゃあそろそろ本題に入りましょう。


「このホウ素スライムB君は青く透きとおってて綺麗でしょう?」

「はい、綺麗で可愛いです~」

「まあ、キモカワイイと言えなくもないですけど」

 スライムを弄りながら答える二人。


「そのガラスのような、水晶のような、宝石のような姿を。覚えておけばちょっといいことがありますよ」

「いいことですか?」

「はい櫻井さん。その子には三人の友達が居ます。宝石の女王ダイヤモンドC、青いサファイアAl、そして水晶Si。みんなその子に似ているでしょう?」

「はい、綺麗な友達ばかりですね~」


「ですね、その子が寂しがらないよう四人一緒に覚えてあげるといいですよ。特にホウ素BからのダイヤモンドCはアルファベット順で覚え易いですし」

 これは上手に締められたかなと思ったら、


「ちょっとー、そこは『君の方が綺麗だよ』でしょー」

 奥原さんの冷やかしが部屋を騒がし、

「そ、そうですよ! 覚えて欲しいならそれくらいは言って下さい」

 櫻井さんが一味に加わる。


 今度はそうきましたか……まだ話を振ってくるんだから、さっきの恋バナもギリ及第点だった、ってのは希望的すぎるかなぁ……

 でも、まだ可能性が残っているのなら、


「直接的なのもいいですが、間接的に濁すのも恋の駆け引きですよ。文豪の夏目漱石はアイ・ラブ・ユーを『月が綺麗ですね』としたそうです。わざと明言せずに、でも、相手を見つめて綺麗ですねと気を持たす。どうですか、大人な感じでしょう?」


「それはそうかもしれませんけど、大人なら意地悪しないで欲しいです……」

 無防備に思いを語る櫻井さんと、

「なに? どうせまたなにか企んでるんでしょ?」

 威嚇のように言葉を放つ奥原さん。企むとするなら、ただ面白くってだけなんだけど……


「いえいえ、企むもなにも白状しているだけですよ。スライムやその友達を口実に皆さんが綺麗だと言い続けてました、ってね」

「「「!?」」」

「え~ホントですか~? ちょっと照れちゃいます」


「ふふふ、ところがですね櫻井さん。本当かと聞かれると『いえスライムのことですよ』とすっとぼける。これが大人の駆け引きですよ」

「そんなぁ……そんなのズルい、意地悪です!」

「そうですよ、そんなのはただの意気地なしです」

「ヘタレだねヘタレー」

「全然大人じゃないよ」


 そんなに意気込むのは術中にハマってる証拠ですよ……なんてことは勿論言わない。彼女たちの反応に少しだけ気が晴れたけど、うっかり調子に乗ったらどんな酷い目にあわされるか……


 ちょっと気分がいいうちに、しれっとサービスしておこうかな。


「はいはい、すみませんでした。勿論炭素そんなものより断然、スライムきみの方が綺麗だよ」

「…………それも新しい、意地悪、ですか?」

 少し拗ねたようになじる櫻井さんに、


「ち、違いますよ、本当に綺麗だから率直に事実を言っているだけですよ」

「……本当ですか?」

 儚げに舞う桜色の唇から、すっと伸びる鼻の陵、穏やかな目に広がる澄んだ瞳が、整然と目に入ってきて……あまりの可愛さに思わず見とれてしまった……

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