第44話 長き神々の争い(SIDEカオス)

*****SIDE カオス




 デメルの指示で動いた下級神は、神のみが通過できる結界内にある臙脂の客間にいた。それは別段不思議な話ではない。格が高くても低くても、神族ならば通過できる結界だからだ。だが、あの場にデメルが自ら出向かなかった理由に問題があった。


 僕が神託を降ろせば、必ず聖女であるレティシアが出迎える。あの臙脂の客間に彼女がいると確証が持てる日は、僕の神託が降りた指定日だけ。大切なレティを囮に使うのは気が引けたけれど、これしか思いつかなかった。


 あの女神は、デメルに言われた言葉をそのまま順番通り吐き出した。それが呪詛の韻を踏んでいる言霊と知らなくとも、神族が口にした響きに呪いは宿る。僕を信じるレティに降りかかる呪詛を、彼女は本能で察した。怖いと感じて僕に助けを求める。呪詛がかかる前に僕が祓うのは当然だけれど。


 聖女に呪詛を掛ければ、僕に呪詛が浸透する。それを狙ってデメルは動いた。だが失敗した時に自分の仕業だとバレないため、下級の女神を使って。この程度の工作でバレないと思われたなんてね。僕達も随分舐められたもんだ。


 本当のことを彼女に告げるか迷った瞬間、嬉しそうに笑ったレティの微笑みに言葉が出なかった。嫌われたくないし、もう危険な目に遭わせなければいい。どんなことがあっても守れるよう、彼女に加護と結界を重ねた。誰も手出しできず、二度と怯えさせないために。


 だから、この粛清も彼女には言わない。


 埋めた地下から回収した女神には、しっかり罰を受けてもらう。呪詛以前に無礼な態度が許せなかった。その上で主犯にもご退場願おうか。僕の大切なレティを呪おうなんて、いい度胸だよね。僕の眷族でもっとも強い女神2人の協力も得られた。今後はレティに近づく神はいなくなるだろう。


「逃げ回って尻尾を掴ませなかったけど、ようやく表に出た。確実に潰すよ」


 宣言した僕に、ヤクシが一礼する。遊んでいた女神を消滅させたフジンが、子供らしからぬ邪悪な笑みを浮かべた。


「僕にも分けてくれる?」


「構わない。こんなチャンス、もうないからね」


 最高神である僕を高みから引きずり下ろしたいなら、聖女を定めた今しかない。守備は固めた、次は攻撃だ。マルスが笑いながら炎の剣を手に握った。


 神々の戦いって、数万年振りじゃないか。折角だ、もうないだろうから楽しむといいよ。僕もきっちり片を付ける。前に消えた女神の時に、デメルじゃないかと疑いを持った。でも確証がなくて、放置するしかなかったことを悔やんでいる。


 もっと早く動くべきだったね。あの王太子に絡んで、僕のレティの首を落とすなんて馬鹿な真似をされる前に……デメルを消滅させればよかった。あの後悔のおかげで、今の僕がある。情けも容赦も一切不要だ。最高神としての僕の力をすべて使い、デメルの首を落とす。


 無言で移動した僕の後ろに従う3人の上位神――対峙したデメルの後ろに従うのは15人の下級神。青ざめたデメルに、僕は作った笑みを向けた。日和見を決め込んだ中級神はどうでもいい。逆らうことを決めた愚神共を滅ぼそうか。

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