第43話 黒幕を引き出す茶番(SIDEカオス)

*****SIDE カオス




 僕はね、わりと寛大な神だと思ってきたし、そう振舞うようにしてきた。最高神として求められる姿のままに、下級神の無礼も許す。僕が直接手を下さなくても、そういう無礼な神は少しすると消滅するか。姿を消してしまうものだった。


 裏で他の神々が動いているのを知っていて、でも気づかない振りをする。それも上位神の役目だと思うよ。だって僕がいちいち口を出せば、周囲が混乱するだろう? 地位の高い者ほど堂々とゆったり構えないと、彼らも落ち着かない。だから僕が寛大に見逃した無礼者に礼儀を教えて諭すのは、他の神々の仕事だった。


 でもね……見逃せる無礼と、許せない無礼が存在するんだ。死んでも償えない罪を犯したら、後悔しながら消滅する義務があると思わないかい? 


 レティの護衛に、アクアとペルセを付けた。女神だから着替えの時も目を離さないよう、しっかり言い含める。彼女の家族と歓談している間に、マルスとフジンが獲物を回収した。どこへ逃げたって、下級神が僕らの目を誤魔化すなんて不可能だ。


「連れてきてくれた?」


「もちろん!」


 胸を張るフジンの銀髪を撫でて、争いごとを好む子供を労う。言動が幼い彼も最高神カオスの眷族で、上位の神族だった。女神を繋いだ鎖の端を持つマルスが、乱暴に女を転がす。


「これだろ?」


「うん。間違いないね」


 僕の大切な聖女レティシアを傷つける発言をした。勝手に侵入しただけでも許せないのに、僕の許しもなく彼女に話しかけ、声を聞いた。挙句、彼女を貶したんだ。


「やっ、なによ! ただの人間の女……ひっ」


 ぐいっと女の髪を引っ張った。悲鳴を上げた煩い口を睨みつけ、声を奪う。この程度の実力しかないくせに、どうして僕の可愛いレティに手を出したんだい? 君は自殺願望でもあったのかな。誰の差し金かなんて、尋ねる必要もない。


 僕に逆らうなら、どんな神や悪魔であれ排除する。


「僕のレティに、ガキだって? 変わった趣味でわるかったね……馬鹿呼ばわりまでしたっけ」


 罪を羅列して、首を振って逃げようとする女を放り投げた。ぶちっ、嫌な音がして手に残った髪を払い落す。声を奪っておいて正解だったよ。醜い悲鳴や懇願なんて聞く価値もないからね。耳が穢れてしまう。


「なあ、捕まえてきたんだ。少しくらい遊ばせてくれよ」


 強請るマルスに頷いて許可を与える。炎を手に宿したマルスは、遠慮なく女神に放った。焦げる嫌な臭いと転げまわる女の姿に顔を顰める。ああ嫌だ、この程度の低級女神が僕のレティに近づいたなんて、ぞっとするよ。もっと早く護衛を選ぶべきだったな。


 彼女が枯れた地を潤したから、アクアやペルセも素直に従った。あれより前なら渋ったかもしれない。だけど、信頼できない女神に頼む気もないし。男神なんて論外だった。彼女の着替えなんて、僕でさえ覗いていないのに。


「燃やすだけ? 僕なら刻んで……内側から蒸発させてみない?」


 子供ゆえの無邪気さは、残酷な色をにじませる。燃える女神の肌を風の刃で切り裂き、そこに火をつけて燃やすようマルスに促した。楽しそうに遊ぶ2人をよそに、僕は溜め息を吐く。別に拷問とか好きじゃないし、勝手に処分してくれていいけど。ああ、この時間がもったいない。もう少しレティのそばで寝顔を見ていたかったな。


「カオス様、デメル様が動き出しましたぞ」


 他の神が動いたと告げるヤクシに、まだ粛清が足りないらしいと頷いた。

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