第40話 悲しすぎたのでしょうか
「ただ泣いただけ、か。じゃが、それが出来る神がおらんかった」
ヤクシ様が教えてくださったのは、あの地を慈しんだ神様の消失でした。突然消えた神様は痕跡もなく、どこかに封じられたのでもなかったと言います。その方はお美しい女神様で、皆ががっかりしたそうです。わかりますわ、素敵な方が亡くなると悲しくなりますもの。
「女神が消えたことを嘆いた者はおったが、あの場で泣いた者はおらんかった」
驚きました。神様は泣かないのでしょうか。女神様がいなくなり、寂しいと思っても涙が出なかった。それは昔、可愛がってくださったお祖母様が亡くなられた時を思い出します。すごく悲しいのに、どうしても涙は出ませんでした。
自分が薄情な気がして落ち込みましたが、お母様が教えてくれました。悲しすぎると涙は出ないのよ。眉を寄せて苦しそうにしたお母様も、泣けなかったそうです。
「皆様、悲しすぎて涙がでなかったのではありませんか? きっと素敵な女神様でしたのね」
両手を組んだ形でそう返すと、驚いた顔をしたマルス様が「お前はいい女だな」と呟きます。どうして私の話になるのでしょうか。アクア様は小さく頷きました。
「そうね。悲しかったわ、あの方は私の憧れだったの」
「なるほど。そういうカラクリだったのね」
ペルセ様は何かに気づかれたようです。フジン様が隣で頷き、2人で通じ合ったように笑いました。よくわかりませんが、解決されたのなら良かったです。後ろから伸びた手に抱き寄せられ、カオス様のキスが黒髪に触れました。
「やだ、嫉妬深い男は嫌われるわよ?」
「いいんだ。オレの嫁だからな」
言い切られて、恥ずかしさに顔が赤くなります。外見はまだ7歳ですが、中身はもっと年を重ねていますから。素敵な神様に囲まれて、私は夕方まで一緒に楽しい時間を過ごしました。
「おっと、我らは帰らんと」
「バランスが壊れるわね」
日が沈んだ窓の外に気づいたヤクシ様が声をあげると、慌てて他の神様も立ち上がりました。カオス様の腕の中で頭を下げてお見送りし、顔を上げたらもう誰もいません。神様というのは、移動も便利なのですね。てっきり神殿経由で来られて、神殿経由でお戻りになるのだと思っておりました。
「この部屋にいるとピンとこないだろうけど、食事をした方がいいね」
言われて、お腹が空いていないことに気づきました。カオス様が来られたのはお昼前で、私はお昼もおやつも食べていません。子どもの体はすぐにお腹が空くのですが……変ですね。
「今日は一緒に食べようか」
「お父様やお母様、弟のラファエルも」
「もちろんだよ」
みんな一緒に食べるのは初めてです。それに先日の唇に触れた事件で、弟のラファエルが嫌われたら困ると思っていましたが……やはりカオス様はそんなに心の狭い方ではありませんでした。ほっとして手を伸ばし、指先でカオス様の頬に触れます。
顔を寄せたカオス様の唇の……端にちゅっと音を立ててキスを贈りました。でも恥ずかしくてカオス様の肩に顔を埋めます。
「レティ? いまの」
「し、知りません!!」
恥ずかしさと妙な興奮で、私は耳元で叫んでしまいました。
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