第41話 どちら? 究極の選択

 照れて動けなくなった私を抱っこしたカオス様の指示で、夕食の用意がされました。ずっと顔を上げられない私の耳に、カオス様の声が響きます。


「ほら、いつまで照れてるの?」


「だって」


「両親が心配するよ」


 おずおずと顔を上げると、優しい笑顔のカオス様がいました。あんなに恥ずかしいと思っていたのに、顔を見るとほっとします。力を抜いて寄り掛かると、私を抱いたままカオス様は腰掛けました。


「ねーね!」


 ラファエルが私を指さすので、いけませんと叱ります。人を指さすのは失礼ですし、今の私はカオス様に抱っこされていますのよ。指さした先に神様がおられるのですから。無礼はいけませんわ。


「ん、ちゃい」


 ラファエルは言葉をまだうまく操れません。ごめんなさいの後ろ部分だけを使ったのですが、私には意味が通じました。


「ラファエルがごめんなさいって」


「いいよ、君の弟だもの。ある程度は許さなくちゃね」


 寛大な方で助かりました。お母様の膝に乗ったラファエルは、最近やっと離乳食を始めています。柔らかな果物をすり潰したものや、スープのようなものが主流でした。普段は乳母の手に任せるお母様ですが、今日はカオス様がいらっしゃるので乳母は遠慮したようです。


 神様が目前にいるのに変ですが、祈りを捧げて感謝してから頂きます。どうしても私を降ろしたくないカオス様のせいで、赤ちゃんのように「あーん」をされる羽目に陥りました。私、もう7歳ですのに。それに2度目の人生なので恥ずかしい。もう淑女なのですよ。


 ぷくっと頬を膨らませると、ぷすっと指で押されました。


「聞いて、レティ。こんなことが出来るのは今だけだよ? 君が10歳になる頃にはやめるから……ね? お願い」


 どうしてもと強請るカオス様に負けて頷いてしまいました。まさか、本当に10歳まで「あーん」を続ける気はないと思います。その頃には私も重くなりますし。


 お母様が掬った果物のスプーンを、ラファエルがぱくりと咥えます。もぐもぐしながら、両手を振って興奮した様子でした。どうやら好きな味みたいです。いま気づいたのですが、私と弟の状態が同じではありませんか?


「はい、あーんして」


 切り分けたお肉をフォークに刺して差し出すカオス様。涙目になりながらぱくりと食べました。だって、食べないとお腹が鳴ってしまいそうなんですもの。どちらが恥ずかしいか、究極の選択でした。

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