第36話 幸せな変化
幸せな気持ちで目を開きます。悪夢に魘されたあの頃が嘘のよう……。
お父様が新たな国王陛下になられて、もう1年になります。私やお母様の状況も大きく変わりました。病弱だったお母様は、カオス様のお心遣いで病巣をすべて浄化されました。現在は元気に王妃としての外交を行っておられます。肌や髪に艶が増して、若返った気がしますわ。
私の変化も驚くほど大きなものでした。王女殿下という地位をいただいたので、貴族令嬢とのお茶会や交流が増えています。他国との交流を進めていますので、新しい学校が出来るそうです。私も通いたいので、今は勉強が忙しいですわ。
何より……可愛い弟が無事生まれました。私、お姉様になったのです! 立ち上がってよたよた歩くのが手いっぱいの弟が可愛くて、毎日一緒にいる時間を用意しました。その分、別の時間にお勉強をすれば良いのです。立派な姉になれるよう、頑張りますからね。
毎日顔を見せてくださるカオス様ですが、つい先日から王宮奥の神殿に住み始めたようです。というのも、先日弟を抱き上げたときに唇が掠めてしまった事故がありました。それを「接吻けを奪われた」と嘆いて帰りましたの。あれが原因でしょうか。キスと言っても家族ですし、異性と言っても血を分けた弟なのですが。
今日は神殿から先触れがあり、重々しく神託が告げられました。カオス様が降臨され、聖女に会いに来る――毎日のことなのに変ですね。
お父様が用意してくださった白いドレスを纏い、髪を結いあげます。半分ほどは背中に流す予定だと聞きました。お母様も忙しく準備に動いてくださり、百合のブローチは正式に私に譲渡されています。以前はお母様にお借りしたのですが、今日は私のブローチとして胸に飾られました。
それ以外にも、真珠をあしらった耳飾りや小さなティアラが用意されています。ティアラのデザインは、銀と白蝶貝を使うことで白百合を作り上げました。可愛くて気にいっています。耳飾りも百合が下を向いたような形で、中央に真珠が揺れる可愛いモチーフです。
聖女となった私が身に着ける宝飾品は、すべて銀細工で百合のデザインとなりました。王家の紋章にも百合をアレンジしたそうです。今日は弟は別室に隔離され、間違ってもカオス様と鉢合わせしないよう手配されました。赤子なので、確かに危険です。
カオス様は多少の無礼はお許しくださる優しい方ですが、やはり危険は遠ざけるのが正解でしょう。結い上げた髪に、お母様が簪を差してくださいます。耳飾りと同じモチーフが、揺れる鎖の長さを変えながら3つでした。
「ありがとうございます、お母様」
「もう7歳、いえ……まだ7歳かしら? レティが大人びているから、何だか変な感じね。ゆっくり大人になればいいわ。子どもでいられる時間は短いんですもの」
そう言ったお母様は、私がお嫁に行く未来を想像したのでしょうか。美しい青い瞳が潤みました。
「安心してお母様。私は今度こそ幸せになるんだもの、それにカオス様の妻になってもお母様とお父様の子どもよ」
「ええ。そうね、カオス様にお任せするんですから心配はしないわ。今日はカオス様によろしくお伝えしてね」
「はい」
お父様は隣国からの使者の応対があります。お母様もこれからそちらに向かわれるのでしょう。カオス様の来訪は国の一大事ですが、私と会いたいと指名されました。お父様やお母様の同席を求められなかったため、城内は落ち着いています。
「そろそろお見えになるわね。臙脂の客間まで送るわ」
お母様と手を繋いで廊下を歩き、裾を踏まないように注意しながら神様の客間に足を踏み入れました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます