第22話 呼ばれた気がします

 お父様のお話から理解できたのは、隣国を含めた周辺諸国の王族に神託が降りたこと。我が国の貴族にも降りたそうで、他国に滅ぼされるよりは自分達の手で王家を断じようと決断なさったこと。聖女である私がいるラ・フォンテーヌ公爵家が旗頭であること。


 寝込んでいる国王陛下に代わり、王妃殿下が話し合いに応じてくれるそうです。他の公爵家をはじめとする貴族が協力してくれるなら、大きな騒ぎになる前に決着を付けられそうでした。宰相である侯爵家が王家側につき、いくつかの貴族家がそれに従っています。彼らを説得するとお父様は仰いました。


「危険はないのでしょうか」


「そのために大勢が集まって話をするんだよ」


「王妃様は……優しい方なのに」


 みんなで囲んで責めたら、哀しい思いをなさると思います。肩を落とす私に、お父様は笑顔で約束してくださいました。一方的に責め立てるだけの場にしない、と。カオス様に納得していただける形で話し合いをするのなら、王妃様も応じていただけるでしょう。


 お父様の約束を信じ、私はお母様達と屋敷に残ります。心配だからと騎士をたくさん集めてくださいました。仲の良いジャルベール侯爵家のおじ様と馬車に乗るお父様を見送り、私はお母様の部屋に向かいます。弟が大きくなるまで、姉である私がお母様を守らなくてはいけませんもの。


「お母様、ご一緒させてくださいませ」


 ばあやと一緒にお母様の部屋に入りました。以前にいただいた本と、大切なお人形も一緒です。お人形を椅子に座らせて、そのお尻の下に本を置きました。侍従達が来客用のベッドを運び入れます。今夜は警備の都合上、一緒に眠る予定なのです。久しぶりにお母様と同室なので、どきどきしますわ。


 お父様は夕食を準備しなくていいと仰って出かけましたが、侍女達は用意するそうです。お話し合いが早く終わるように願う、願掛けというお呪いだと聞きました。


「大変なことになり申し訳ございません、奥様」


 責任を感じているのか、深々とばあやが頭を下げました。お母様は微笑んで首を横に振り、彼女の手を握ります。涙ぐんだばあやに、私は抱き着きました。


「ばあやは悪くないわ。だって悪いのは王太子殿下だもの」


「そうよ、リタ。あなたが悪いわけではないし、王家が乱暴な振る舞いをしたら諫めるのが臣下の役目。今回はたまたま神託が重なっただけ」


 気に病んだらダメよ。お母様の言葉にばあやが頷きました。そこへノックの音がします。応じると入り口を守る騎士が扉を開いたので、危険な相手ではないのでしょう。礼儀正しい数人の騎士が入室し、膝を突いて私に手を差し出しました。


「お嬢様、旦那様がお呼びです。王宮へ足をお運びください」


「……もう話し合いが終わったのですか?」


 お母様の声が少し硬いですね。心配しておられるのでしょう。微笑んで頷く騎士達の様子に、皆にほっとした空気が広がります。お話し合いが終わったのなら、お呪いのおかげですね。喜ぶ侍女達にお礼を言ってから、騎士の手を借りました。


「わかりました。お父様の元へ連れて行ってください」


 椅子の横を通るとき、思い出して人形を手に取ります。誰にも見られてはいけない書類が入っていますから、どこかでそっと処分しましょう。


 屋敷を出るとき、ふと呼ばれた気がしました。振り返りますが、見送りの誰も呼んだ様子はありません。おかしいですね、確かに呼ばれたと思ったのですが。


「お嬢様、どうぞ」


 用意された馬車に乗り込み、私は人形の中に隠した婚約申し込みの書類を引っ張り出し、小さく破いてもう一度人形の服に隠しました。少しずつ、バレないように捨てなくてはいけませんね。

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