第21話 君のためだよ(SIDEリュシアン)
*****SIDE リュシアン
美しいレティシア――僕は君を失ってから、すべてを後悔したんだ。幼い頃の淡い恋心を自ら汚し、大切に守ると誓った己に背いた。
いつの間にか濁っていた僕の眼差しは真実を歪めて捉え、塞いだ耳は真実を聞き分けられなかった。君は冤罪だと訴えたね。そうだよ、僕はあの時知っていたのに。手入れの行き届いた艶のある黒髪を引っ張られ、涙ぐむ君の姿に、何も感じなかった。
君の首が落ちた瞬間、弾かれたように感情が溶けた。凍りついた想いが溢れる。忘れていた恋心も、大切に思う心も……まるで呪われていたみたいに。麻痺していた感情が僕を焼き尽くした。もう失ってしまったのに、この手に戻らないのに。僕は後悔して君の首を抱いて眠った。
返せと叫ぶ公爵の声を無視して、君の首を持ち帰ったんだ。艶がなくなった黒髪は乱暴に千切れて、美しい森の色の瞳は閉ざされて見えない。優しく名を呼んで謝っても、君はもう応えてくれなかった。髪を撫でても微笑んでくれない。
わかってる。僕が首を落とさせたんだ。なんであんなことしたんだろう。分からない。父上が扉の外で叫んでいるが聞きたくなかった。母上の泣く声も響くが、扉は絶対に開けない。家具で塞いで開かなくしたから、時間稼ぎは出来る。窓から侵入する騎士は、先ほど落とした。
ねえ、レティシア。一言でいい。僕に何か言って。死ねでも、恨んでるでもいい。声を聞かせてよ。張りのなくなった肌を撫でて、化粧が落ちてしまった唇を重ねた。お姫様は王子様のキスで起きるんだろう?
飛び起きて、僕は激しい呼吸を整える。何度もこの夢は見ていた。物心ついてから、ずっとだ。きっとこれは夢じゃなくて現実……そうでなければ、涙の理由がつかない。暗い部屋の中で、レティシアの姿を描いた肖像を見上げた。6歳の子供ではなく、僕の記憶に残る21歳の君……愛しいレティシア。
今度こそ、
記憶では8歳の君と初めて出会って恋をした。だからもっと早く会いたくて、公爵家令嬢なら婚約者に相応しいと父上にお願いした。ようやく会えたのに、どうして僕を拒絶するの? 君は僕の妻になって、幸せになる義務があるんだよ。
全能神なんて厄介な存在に目を付けられたのは、僕の可愛いレティシアだからね。彼女が魅力的なのは仕方ないけど、僕以外にその手を預けたりしないで。抱き寄せられるなんて、警戒心が足りないよ。君は僕のものだ。
微笑みかけた男は本当に神だったのかな。純粋だから君はすぐに騙されちゃう。僕が守らなくちゃ。王家の権力や権威も、財力もすべて君を手に入れるために使おう。小賢しい宰相だって、記憶を持つ今の僕なら操れる。神託だって? そんな遠回しな方法で僕からレティシアを奪えるとでも?
ふふ、おかしいね。もうすぐ迎えに行くよ。君はきっと涙を流して喜んでくれるはず。安心して、神を名乗る悪魔に君を渡したりしないから。
僕は頬を流れる涙を乱暴に拭い、肖像画の前に膝を突いた。見下ろすレティシアの微笑みは柔らかく、
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