第20話 前代未聞の神託でした
お父様が話し始めたのは、貴族達が王家を認めない宣言を出すという難しいものでした。過去にそのような出来事はなく、政に関わったこともありません。困惑していると、お父様は噛み砕いてくれました。
「ばあやの実家が大変なのは知ってるね」
頷きました。手紙自体は見せてもらえませんでしたが、男爵家をお取り潰しにすると王家が宣言したのですね。そう話すと、お父様は「よく理解している」と褒めてくれました。このくらいは大丈夫です。
「サレイユ男爵家を調査したが、取り潰しの原因とされた横領は確認できない。何より問題なのは、証拠が示されていないんだ」
「ばあやの家は悪くないのに、家や財産を取られるのですか」
カオス様は任せておけと仰いましたが、大丈夫でしょうか。どうして酷い言いがかりをつけるのでしょう。私が知る国王陛下はそんな非道な方ではありませんでした。病弱で仕事を王太子殿下に、任せて……。
顔を上げた私の表情から察したお父様が、頷きました。
「おそらく、国王陛下はご存知ないだろう」
王太子殿下のリュシアン様が政を始めたのは、14歳の時でした。現在8歳の殿下にそこまでの権限はないでしょう。変なことになっていませんか。
「判断を下した責任者に、宰相の印があった。おそらく王太子殿下に
狐のような目をしたあの方ですね。思い出したのは、あの方はご息女を王太子殿下に嫁がせたいと願っていた事実です。もちろん他の貴族家でもそういった動きはありますが、宰相様は露骨でした。
過去に私への嫌がらせもありましたね。王太子殿下との待ち合わせ時間を故意に遅らせて知らせたり、馬車を一番遠い離宮の門へ停めさせたり。あの頃の私はずっと我慢しました。
「ばあやの家族は、そんな意地悪で家を失うのですか」
「そんなことにならないよう、貴族家同士で協力し合うことにしたんだよ。こんな酷いことを許せば、次は自分達の番だからね」
お父様は分かりやすく言い換えながら説明します。でもこんな難しいお話を、私にする理由は何でしょうか。前世の記憶がなければ、到底ついていけません。
「お前はカオス様にもお願いしただろう?」
確証を持って尋ねるお父様に頷きました。やっぱりと呟いたお父様の次のお言葉は意外でした。
「神殿ではなく、他国の王族に直接神託が降りたらしい。神殿を飛び越して、直接だよ。こんなこと前代未聞だ」
「カオス様が」
「ああ、そうだよ。罪なき者を冤罪で断じる王家を断じよ――と」
その神託を聞いた途端、私はお父様達貴族家が足並みを揃えた理由に気づきました。このままでは神託に従い、他国が攻め込んでくるのです。もちろん一般の民は道を開けば無事でしょう。王家を断じよ、それは王家の血筋を絶やせと神が命じたに等しい言葉でした。
冤罪は許さない。国王陛下と王妃殿下は事情をご存知ないので該当しませんが、間違いがないとは言えません。断罪するのは神ではなく、人なのですから。国王陛下が我が子を守ろうとすれば、他国の王族と争うことになるでしょう。
私の一言でこんなことになるなんて……震える私を、お父様が強く抱きしめます。
「安心して、レティ。そのために私は立ち上がることを決め、貴族家もみんな協力してくれるのだからね」
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