第12話 本当に神様、なのですか?

 大急ぎで準備を終えた客間で、最後の点検をします。お父様も同席なさいました。というより、お父様主導で確認が進みます。執事や侍女も緊張が伝わり、どこか空気がぴりぴりして身が引き締まりました。


「百合の花は白、それ以外の色は混ざっていないか」


「「はい」」


 こんな感じで、ひとつずつ確かめます。指さし確認し、少しでも条件に合わないものは片付けられました。カオス様のお札を1枚、これは扉の正面の壁に額縁に入れて掛けます。


 白百合が飾られた部屋で、私は着替えの白いワンピースと銀の髪飾りをソファに並べました。今夜着用予定です。髪飾りは百合のモチーフで、お母様にお借りしました。首飾りはなしが礼儀だそうで、耳飾りは子供なので省略です。一度も聞いたことがないマナーですが、お父様に間違いはないでしょう。


 やはり国外の方なのですね。そのお国の流儀に合わせたおもてなしは、子供の私ではわかりませんし。残念ながら21歳までの記憶にも残っておりません。私にとって初めてもてなすお国の方と考えて良いでしょう。お茶の種類はジャスミン一択。子供の舌だと甘さが足りませんので、蜂蜜も添えてもらいました。


 夜なので、添えるのはお菓子ではなく軽食となります。今回はビスケットとたっぷりの果物ジャムにしました。私の好物なのです。それから部屋の家具のすべてが、重厚感のある暗色の家具に統一されました。白百合に映えるのですが、お好きな色なのでしょうか。


「よし。完璧だ」


 お父様の手には、神殿発行の分厚い本が開かれています。私が知らない本なので、教典ではありませんね。全3冊にわたる分厚い教典は、私も前の人生ですべて読み終えました。今も1冊目からお勉強中です。


「夕方になったら、日が暮れる前に着替えなさい」


「はい、お父様」


「お迎えする際は、王族より丁寧にお迎えして」


「はい?」


 奇妙な仰い方ですこと。王族より上など神様以外……神様? カオス神様の神殿に突然現れ、私を知っていて、神像にお姿が似ておられる上、カオス様と名乗られた。え? うそ、そんなこと?


「お父様……お尋ねしても構いませんか? もしかしてカオス様は」


「神様だよ」


 神様!? 本当に? 下界に降りて来られたという……あっ。


 ふらりと眩暈がして私は膝から力が抜けて倒れました。ぎりぎり意識は残っておりますが、失神寸前です。後ろにいたばあやが慌てて支えてくれました。ぐったりと凭れ掛かる私は、すぐに近くの長椅子に横たえられます。


「大丈夫かい?」


「……は、い」


「これは王族と一部の上位貴族の当主しか知らない話だからね、レティが知らないのは当然だよ」


 そんな話が裏にあったのですか。お父様は公爵家当主で王位継承権もお持ちです。だから神様の絵姿をお持ちだったのですね。驚きました。


「カオス神様が訪問を予告してくださったのは名誉なことだ。私のレティなら可愛いし、礼儀正しいから安心してお迎えすればいい」


「お、お父様も、同席を……」


「お願いしてみよう」


 そうでしたね、カオス様次第なのでした。まだ手が震えておりますが、ばあやに急かされて私は慌てて支度に向かいます。食事を済ませて、入浴して全身を磨くので時間がかかると聞きました。着替え終えたら、お母様にぎゅっと抱きしめていただきましょう。

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