04 微かな糸口
「……ノ本くん、湯ノ本くん、起きてください、湯ノ本くん、HRは終わりましたよ」
宮下先生が俺を揺すり起こしてくる。放課後、自分の席で寝ていたようだ、教室には誰もいない。
「先生……ウッ!」
吐き気を催しトイレへと走る。
「ウッ、オェ! ゴホッ!」
食べたものを全て吐き出す。のどは焼けるように痛く、胃はまるでねじ切れているかのようだ。
「湯ノ本くん! 大丈夫ですか!」
トイレの外から先生が呼びかける。
今度は毒かなにかの薬品を使いやがったな!そこまで入念に準備してまで殺すのかあのイカレやろう!
トイレから出ると先生が心配そうな顔をしている。
「湯ノ本くん大丈夫ですか、急に吐くなんてなにかの病気でしょうか」
「いえ、そこまでのものではないですよ、ただ胸焼けがしただけです、吐いたので少しスッキリしました」
先生の前では気丈に振る舞うが正直ふらつく。
「そう言われましてもやはり心配です、一緒に保健室に行きましょう、歩けますか?」
先生に介抱されながら保健室に向かい、ベッドで横になる。
「はい、お水です」
「ありがとうございます」
水を渡してくれたので一気に飲み干す。だいぶ楽になってきた。
刺殺、撲殺ときて毒殺か、手口が悪質になってきている、それに無関係の人まで巻き添えにするとは俺を殺すために手段を選んでいない。いくら何も無かったことになるとしても俺のせいで大勢が苦しむ様を見るのは気分が悪い。
「なにか悩み事でもありますか? 最近の湯ノ本くんを見ているとどこか切羽詰まった感じがすると言いますか、なにかに怯えているように見えます、仲の良かった川北さんともお話されていませんし」
そこまで俺の状態に気づいていたなんて、さすが教師なだけある。
「ちょっと勉強に不安がある程度ですよ、あずさに授業について教わっていた時、些細なことで怒らせてしまったのですがすぐ機嫌を直してくれますよ」
「そうだったんですね、それなら良かったです」
実際は俺の人生で最大の難問が降りかかっているのだが答えは簡単には見つかりそうにない。
さて、今日の問題だがいつ、どのようにして毒を仕込まれたかだ。調理中に入れたのだろうか、記憶の中ではそんな怪しい動きをしたやつは見ていない。それ以外だと事前に仕込むとかか?事前に、事前に……食材にすでに入れていた!そうなると。
「先生、今日の調理実習ですけど食材は先生が準備したんですよね? ひとりで」
「ええ、そうよ、もしかしてその中に傷んでいるものがあったのかしら、ひとつひとつちゃんと確認はしたのだけど」
「それを買ったのはいつです!? ちゃんと保管はしていたんですよね!? 先生以外の人が触ることはありましたか!? 調理室は俺たちの実習の前に開けていないですよね!?」
「痛いわ! 湯ノ本くん、離して!」
気づいたら先生の両肩を強く掴んでいた。
「あ、すいません、つい」
「食材を買ったのは一昨日よ、冷蔵庫に保管をして部屋のカギをかけていたから誰も触ることはできないわ、実習も私達のクラス以外はまだやっていないから閉めたままよ」
認めたくはないが今回は先生が疑わしい。これで3人目か、もしかしたら俺の予想外で全く知らない人物の可能性もあるがその線は薄いと感じている。先生には申し訳ないが少し詰め寄ってみるか。
「先生なんですか毒を入れたのは、ハンバーグの材料ですか? クッキーの材料ですか? それとも両方に仕込んだんですか? 俺や有島さん、俺達の班を狙ったんですね。」
さあ、どんな反応を見せる。
「ど、毒! なんですかそんな物騒な言葉は!? まるで私が殺人を
ハンバーグがオムライスに、そして有島さんは今日、学校にすら来ていない。やはり記憶が改ざんされている。
さすがに直球で聞いてもぼろは出さないか、わかってはいたことだが、あのサイコやろうを簡単に攻略できはしない。
「ひどいです、もしかして私が準備したものに傷んでいるものがあって、それで湯ノ本くんが食あたりになったことを恨んでいるんですね、もしそうだとしても殺人者呼ばわりするなんてあんまりです!」
先生が泣きながら怒っている。またしても女性を怒らせてしまった。何人もの女性を悲しませるなんて普通なら
「すいません、言い過ぎました、俺もう帰ります」
泣いている先生を残し保健室を後にする。
家に帰り母親が夕食を準備していたが食べる気にはならない。自室に
ことの始まりは有島さんに告白した時だ、その時は右の背中を刺された。その次は空き教室での告白、その時は左だ。よくドラマでは刺された場所によって右利き左利きを判別することができると言うが、俺は左右を刺されている、判別はできない、わかっててやったことなのか、それとも偶然か。他に手がかりになるのは声だ。だがそれも無理だろう、意識が
容疑者はまず、あずさ。彼女のみが告白の事実を知っている。真っ先に疑うのも無理はない。
次は谷﨑だ。凶器に砲丸を使用している。倉庫のカギを持っていたのは彼女で犯行を実行できるだけの力を持っている。それになぞの空白時間がある。
最後は宮下先生。調理室のカギは生徒が勝手に取ることはできない、先生に生徒手帳を見せて名簿に記録しないといけないため偽名は使えない。食材も先生が全て準備している。
「……わからねえな、考えれば考えるほど全員が怪しく見える」
名探偵の頭でも借りたいぐらいだ。
布団に潜り込み脳みそをフル回転させるが一向に糸口がつかめない。そのうち部屋に引き
俺が休んでいる時に3人が順番に訪れた。
あずさは家が近いという理由でプリントを届けに来たが俺は部屋から出ず母親が受け取った。谷﨑はランニングのついでと言うことで飲み物を差し入れに来たが一切口をつけず全て捨てた。宮下先生は担任として俺の部屋の前まで来たが俺が返事をしないため帰って行った。
だれも信じられない、心が壊れるような幻聴が聞こえる。学校に行ったとしてもどうせ殺されるだけだ。それならここにずっといた方が安心だ。……有島さん、君とはもうお別れなのかもしれない。
憎悪、怒り、悲しみ、感情がぐちゃぐちゃになりなにも考えなくなっていた時、一本の電話が来る。孝也からだった。あいつの声が聞きたくなり電話にでる。
「健児、なにがあったかわからないが俺でよかったら相談に乗るぜ、無理強いはしないけど話せるところだけでも話してみなよ」
「……孝也、ありがとう、今はちょっと無理そうだ。」
「そうか、家から出られそうになったらあの公園に行こうぜ、覚えているか? 俺達がまだ小さかった時に遊んだ公園だよ。そこで昔のバカ話でもして一緒に笑おうぜ」
「ああ、あそこか、当時は放課後いつもあの公園で遊んでいたな、ありがとう、行けそうになったら昔話でも……昔話で……も、昔、小学生の時の……」
なにかが引っかかる、なんだ、とても重要なことだ、なんだ、なん……だ、ハッ!
「孝也! ありがとう! おまえのおかげでなんとかなりそうだ! 俺はもう大丈夫だ!」
「お、おう、なんか元気になったのならよかった、明日、学校に来いよな」
「わかっている、絶対に行くさ!」
孝也との通話を切る。
思い出した、やつの唯一残した、やつが犯人であることの証拠を!なぜ疑問に思わなかったのか、なぜ今になって思い出したのかが悔やまれる。そうか、そうか!
「そうか、犯人は――」
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